ブタ回虫の脱皮に関連するたんぱく質は回虫ワクチンの有力な候補分子である
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要約
回虫の幼虫期虫体の脱皮を支える分子群は回虫ワクチンの候補分子を含むことが分かった。ブタ回虫は抗寄生虫薬の開発に有望なモデル寄生虫である。
背景・ねらい
有機農法や集約的な畜産形態の導入に伴い、回虫が農畜産物に混入することが危惧されており、効果的な回虫駆除法が求められている。一方、薬物残留が問題視されている現在の化学療法剤に依存した駆虫法からの脱却も急がれている。本研究では回虫の生残に不可欠な蛋白・酵素を解析し、これら分子の性状をもとに回虫ワクチン・抗回虫薬を設計し、回虫に感染した家畜動物の摘発法、回虫駆除法及び感染源である虫卵拡散の防止策を確立する。
成果の内容・特徴
- 回虫の宿主体内ステージである第3期から4期幼虫への脱皮時に発現が増大するブタ回虫無機リン酸フォスファターゼ(AsPPase)及びブタ回虫24kDa(As24)を同定している。
- RNA干渉法を用いてAsPPase遺伝子を標的とするAsPPaseノックダウン回虫を作製したところ、内在性AsPPaeの発現抑制によって第3期から4期への脱皮が阻止されることが確認されている(図1)。
- 組換え型AsPPaseの免疫で抗AsPPase抗体が誘導されているマウスに対してブタ回虫成熟卵による攻撃感染を実施し、非免疫マウスと体内移行幼虫数を検討したところ、肺への移行が約71%阻止できることが判明している。
- 新たな脱皮関連たんぱく質として幼虫期虫体からAs24を同定した。AsPPaseと同様に標的分子に対する特異IgG抗体(抗As24IgG抗体)によって顕著な脱皮阻止効果が確認されている(図2)。
- 以上より、ブタ回虫の脱皮に関連するたんぱく質は回虫ワクチンの候補分子など回虫症制圧に貢献できる分子を含む可能性があることが確認されている。
成果の活用面・留意点
- RNA干渉法を用いて特定の遺伝子の発現を抑制することでブタ回虫ゲノムがコードする個々の遺伝子機能を詳細に解析することに成功している。
- 本研究の知見は、脱皮酵素の機能を特異抗体によって抑制することで回虫第3期幼虫から第4期への移行を阻止できることを明らかとしており、感染防御能の高い寄生虫駆除薬の開発に有益な情報である。
- 寄生虫ワクチン及び抗寄生虫薬の開発に向けた研究モデルとして、本研究が開発したブタ回虫の実験系は非常に有用である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:細菌・寄生虫感染症の診断・防除技術の高度化
- 課題ID:322-e
- 予算区分:委託プロ(BSE・人獣)
- 研究期間:2003~2007年度
- 研究担当者:辻 尚利、カイルル イスラム、山田 学、三好 猛晴
- 発表論文等:1) Islam et al. (2005) Infect Immun. 73, 1995-2004.
2) Islam et al. (2005) Int J Parasitol. 35, 1023-1030.
3) Islam et al. (2006) Parasitology 133, 497-508.