アカバネウイルス野外分離株の分子疫学的解析
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要約
我が国で過去に分離されたアカバネウイルス株は多様な遺伝学的性状を示し、固有の株が常在・流行しているのではなく、毎年のように海外から様々な遺伝子型のウイルスが侵入し、その一部が一過性に広がるという流行パターンを繰り返している。分子疫学的解析結果は流行株の遺伝学的特性を把握するために有用である。
背景・ねらい
吸血性節足動物によって媒介される家畜のアルボウイルス感染症には様々な種類があり、一度流行すれば畜産業に多大な経済的損失をもたらす。本研究では、牛の流行性異常産の原因として最も重要視されているアカバネウイルスについて、1959年~2003年に分離された170株のS RNA分節の塩基配列を元に分子疫学的解析を行い、その流行様式を明らかにしてアカバネ病対策の一助とすることを目的とする。
成果の内容・特徴
- 野外分離株間のS RNA分節(ヌクレオカプシドタンパク質コード領域)の相同性は、核酸レベルで83~100%、アミノ酸レベルで91~100%であった。とくに同地域で分離された株の間ではより高い相同性が認められる傾向にあり、さらに同年・同地域で分離された株同士ではほぼ100%の相同性を示す(表1)。
- 分離地域間で比較した結果、アジア圏内の日本、台湾、イスラエル株間では、オーストラリア株およびケニア株と比較した場合より高い相同性が認められた。オーストラリア株はアジア株と比較的近縁でるが、ケニア株は明らかに遠縁である(表1)。
- 分子系統樹解析により、アカバネウイルスは分離国に応じて4つのグループに分けられる。日本株は、グループIおよびIIの2群に分かれ、グループIには台湾およびイスラエル株も含まれている。オーストラリア株、ケニア株はそれぞれ独立したグループ(III、IV)を形成している。日本株のS RNA分節の変異には時間的な連続性が認められず、その分子系統樹上の位置は時にグループを越え、年ごとに変わることが判明した(図1)。
- わが国で流行している株は、オーストラリアやアフリカで流行している株と明らかに区別でき、アジア地域の共通遺伝子プール内で進化しているものと考えられる。日本に固有の株が常在し、これが繰り返し流行するのではなく、毎年のように海外の常在地から様々な遺伝子型のウイルスが侵入し、その一部が一過性に流行するというパターンが繰り返されていると考えられる。
成果の活用面・留意点
新たに分離されたアカバネウイルスの疫学的特徴を把握するために有用な基礎データとなる。今後は、近隣諸国の協力の下に国や地域を越えたウイルスの流行動態を調査していく必要がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
- 課題ID:322-g
- 予算区分:競争的研究資金(科振調)
- 研究期間:2004~2008年度
- 研究担当者:山川 睦、梁瀬 徹、加藤友子、津田知幸
- 発表論文等:Yamakawa et al. (2006) Virus Res. 121: 84-92.