系統樹解析によって明らかになったオルトブニヤウイルスの遺伝子再集合
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要約
沖縄で牛の血液から分離・同定されたオルトブニヤウイルス属Batai(バタイ)ウイルスにおける遺伝学的解析結果は、自然界において遺伝子再集合が同属のウイルス間で起こっていることを示している。塩基配列に基づく系統樹解析はオルトブニヤウイルス属ウイルスの簡便な同定を可能とする。
背景・ねらい
我が国では、南日本を中心に、牛のアルボウイルスの流行が頻発している。分離ウイルスの中には、未同定ウイルスが多数含まれており、これらの性状を解析し、疾病との関連を明らかにすることが必要である。本研究では、未同定のアルボウイルスの遺伝学的解析による迅速同定法の確立とそれらの性状の解明を目的にする。
成果の内容・特徴
- 沖縄県与那国島(1994年)と宮古島(2001年)で採取した牛の血液から分離された未同定ウイルス、ON-1/E/94とON-7/B/01株は、物理化学的性状からブニヤウイルス科のウイルスと考えられていた。そこで、3つの分節ゲノム(L、M、S RNAセグメント)をRT-PCR法により増幅し、それらの塩基配列を決定した。データベース解析の結果、沖縄分離株のS RNAセグメントの配列は、マレーシアで1955年に蚊から分離されたオルトブニヤウイルス属Batai(バタイ)ウイルスの配列に高い相同性(97%)を示した。
- バタイウイルスのL、M RNAセグメントの配列を決定し、沖縄分離株の配列と比較したところ、S RNAセグメントと同様に高い相同性(94~95%)を示したことから、沖縄分離株はバタイウイルスと同定した。バタイウイルスは、過去に群馬県で分離され、血清学的な調査で国内に侵入していたことがわかっていたが、詳しい性状の解析は今回が初めてである。
- オルトブニヤウイルス属の他のウイルスとの比較において、M RNAセグメントにコードされる外被タンパク質のアミノ酸配列が、アフリカに分布し人の出血熱を起こすとされているNgari(ヌガリ)ウイルスと高い相同性(95%)を示す。
- 3つの分節ゲノムの配列を基に系統樹を作成したところ、M RNAセグメントでは、バタイウイルスとヌガリウイルスは近縁であったが、L、S RNAセグメントでは異なるグループに属していた。分節ゲノムを持つウイルスでは、2種類のウイルスが同時に感染した時に、お互いのゲノムの交換が起こり、ハイブリットウイルスが誕生する(いわゆる遺伝子再集合)。今回の解析結果から、オルトブニヤウイルス属の中でも遺伝子再集合が起こり、ウイルスの進化や多様性に関係していることが明らかになった(図)。
成果の活用面・留意点
- 従来の血清学的な手法を用いることなく、遺伝子解析により、オルトブニヤウイルス属のウイルスの同定を簡便に行うことが可能となる。
- バタイウイルスと人や家畜の疾病との関連は報告されていないが、遺伝子再集合やゲノム上の変異の蓄積により、病原性や抗原性の変化が起こることも考えられるため、今後とも監視が必要である。
具体的データ

その他
- 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
- 課題ID:322-g
- 予算区分:競争的研究資金(科振調)
- 研究期間:2004~2006年度
- 研究担当者:梁瀬 徹、山川 睦、加藤友子、高吉克典、仲村圭子、国場 保、津田知幸
- 発表論文等:Yanase et al. (2006) Arch. Virol. 151: 2253-2560