牛T細胞性リンパ腫における新しい疾病概念の確立

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要約

従来の分類では、皮膚型、胸腺型、子牛型の一部はT細胞性であることが判明していたが、これらとは細胞起源の異なるγdT細胞性リンパ腫、過剰顆粒型γdT細胞性リンパ腫、ナチュラルキラー様T細胞性リンパ腫を発見し、その疾病概念を確立した。これにより新しい分類法の開発が可能となる。

  • キーワード:大顆粒リンパ球、γdT細胞、リンパ腫、パーフォリン、牛
  • 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
  • 連絡先:電話011-851-5226、電子メールwww-niah@naro.affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

牛のリンパ球の腫瘍は、年齢と病変の分布に基づき、成牛型(地方病性牛白血病)、子牛型、胸腺型、皮膚型に分けられ、牛白血病ウイルスによって起こる成牛型以外は、散発性牛白血病とされてきた。この分類法が確立された数十年前には免疫学が未発達で、単純な分類をせざるを得なかったが、現在はパラフィン切片において免疫担当細胞の同定が可能となっている。そこで、免疫組織化学的手法および組織化学的手法を用い、従来の分類に入らないリンパ腫の特徴を明らかにし、新しい分類の開発に資するデータを得る。

成果の内容・特徴

  • γdT細胞性リンパ腫の特徴を把握した。このタイプの腫瘍は比較的若い牛に発生することが多く、かなりの症例で皮膚、気管、消化管、子宮、膀胱などにおいて、腫瘍細胞が上皮向性を示している(上皮向性γdT細胞性リンパ腫)。免疫組織化学的には、腫瘍細胞はCD3、WC1、パーフォリン陽性で、γdT細胞の特徴を有する。電子顕微鏡による観察では、細胞質内に少数の小さな顆粒が認められる。
  • 16か月齢の未経産牛において、過剰顆粒型γdT細胞性リンパ腫が発生した。皮膚、消化管、膀胱、子宮には上皮向性病変がある。腫瘍細胞には多数の小型顆粒があり(図1)、パーフォリン陽性であるが、ナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ(CAE)陰性である。免疫学的表現形はγdT細胞性リンパ腫と同じで、CD3とWC1が陽性である。多数の細胞質内顆粒があるものの、その他の特徴は上皮向性γdT細胞性リンパ腫と同じで、本症例はγdT細胞性リンパ腫の亜型と考えられる。
  • 9か月齢の子牛にナチュラルキラー(NK)様T細胞性リンパ腫を認めた。上皮向性γdT細胞性リンパ腫とは異なり、白血化と肝臓への腫瘍細胞の重度浸潤を特徴としている。腫瘍細胞は大小さまざまな細胞質内顆粒を含み、大型顆粒を有する腫瘍細胞では顆粒の数が少ない(図2)。顆粒はパーフォリン陽性であるが、過剰顆粒型γdT細胞性リンパ腫とは違って、CAEも陽性である。T細胞の特徴である細胞表面がCD3で陽性となる腫瘍細胞がみられるが、WC1には陰性で、NK様T細胞性リンパ腫と診断した。

成果の活用面・留意点

  • 牛リンパ造血系腫瘍の分類法の開発に役立ち、病性鑑定マニュアルの改善にもつながる。
  • 免疫担当細胞の腫瘍の性状を明らかにすることにより、正常の免疫担当細胞の分布や機能の解明に役立つ。
  • 人や他の動物のリンパ造血系腫瘍と比べることが可能となり、比較病理学的に意義が大きい。

具体的データ

図1. 過剰顆粒型γδT 細胞性リンパ腫.多数の細胞質内顆粒のため、核が偏在している

図2.NK 様T 細胞性リンパ腫.細胞質内顆粒の大きさや数はさまざまである

その他

  • 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
  • 課題ID:322-g
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2006年度
  • 研究担当者:門田耕一、石川義春、佐藤研志(北海道十勝家保)、田中宏一(香川県畜産課)、
                      野崎周作(愛媛県八幡浜家保)、内藤和美(山梨県畜産課)
  • 発表論文等:1)Kadota et al. (2001) J. Comp. Pathol. 124:308-312.
                      2)Sato et al. (2002) Aust. Vet. J. 80:705-707.
                      3)Tanaka et al. (2003) J. Vet. Med. A 50:447-451.
                      4)Nozaki et al. (2006) J. Comp. Pathol. 135:47-51.
                      5)Naitou et al. (2007) Jpn. Agric. Res. Q. 141:79-83.