パーフルオロオクタン酸は脂肪酸代謝関連遺伝子発現を変動させる

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要約

新規環境汚染物質であるパーフルオロオクタン酸を投与したラットでは、肝臓のペルオキシソームおよびミトコンドリアでの脂肪酸β-酸化に関与する遺伝子群の発現が誘導されることを明らかにし、本物質の毒性発現メカニズムを解明する重要な手がかりを得た。

  • キーワード:残留性人工フッ素化合物、PFOA、脂肪酸代謝、ペルオキシソーム
  • 担当:動物衛生研・安全性研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708、電子メールwww-niah@naro.affrc.go.jp
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

パーフルオロオクタン酸(PFOA)は、残留性人工フッ素化合物(PFCs)の一つで、様々な工業製品に使われている物質であるが、その環境、生体への蓄積性から、安全性評価等の対策を急ぐべき環境汚染物質であると考えられている。PFOAはヒト、家畜、野生動物の血液や組織から検出されるが、その生体への作用は不明である。そこで、ラットに体重1kgあたり1 mgから15 mgのPFOAを3週間連日経口投与し、マイクロアレイを用いて肝臓の遺伝子発現の変化を解析することでPFOAの生体に対する影響を検討した。

成果の内容・特徴

  • PFOAを投与したラットでは、体重に対する肝臓重量の比率が対照に比べ有意に増加し、脾臓重量の比率は有意に減少していた。血液生化学的検査では、ALPおよびALTが有意に上昇していた(図1)。リン脂質、総コレステロールおよびHDL-コレステロールは有意に減少していた(図2)。血漿および肝臓中のPFOA蓄積量は有意に増加した(図3)。
  • 遺伝子31,042種をプローブとしたマイクロアレイによる解析の結果、PFOAを投与したラットでは、500種以上の遺伝子が2倍あるいは1/2以上の発現量の有意な変動を示した。各投与量を通じて106の遺伝子で発現が増加し、38の遺伝子で減少した。誘導を受けた遺伝子のうち、脂質、特に脂肪酸の輸送および代謝に関わるものが大きな割合を占め、脂肪酸合成および分解、ペルオキシソームおよびミトコンドリアにおける脂肪酸のb-酸化に関わる遺伝子の発現量が有意に変動していた(図4)。コレステロール合成、TCA回路に関わる遺伝子の発現量も変動していた。
  • 遺伝子発現と血液生化学性状の変動から、PFOAはラット肝での、脂質の合成、分解やペルオキシソームおよびミトコンドリアにおける脂肪酸酸化に影響を及ぼすことが明らかになった。PFOAは脂肪酸と類似した構造を有しているので、基質として脂肪酸代謝をかく乱している可能性がある。

成果の活用面・留意点

PFOAの生体影響に関する基礎的情報を得ることができた。PFOAによる脂質代謝のかく乱により、脂肪酸が果たしている遺伝子発現調節機能の異常や、 DNAの酸化的障害などが生じる可能性もあることから、今回変動した脂質代謝以外の遺伝子についても詳細に検討する必要がある。

具体的データ

図 1. 肝臓関連酵素に対する影響図 2. 脂質系に対する影響

図 3. 血漿および肝臓へのPFOA の蓄積量

図 4. PFOA を投与したラットの脂肪酸β-酸化関連遺伝子の誘導

その他

  • 研究課題名:飼料・畜産物の生産段階における安全性確保技術の開発
  • 課題ID:323-d
  • 予算区分:委託プロ(環境保全(公害防止))
  • 研究期間:2004~2008年度
  • 研究担当者:グルゲ・キールティ・シリ、山中典子、宮崎茂、山下信義(産総研)、Leo W.Y. Yeung (HK City U),
                      Paul K. S. Lam (HK City U), John P. Giesy (Michigan State U)
  • 発表論文等:Guruge et al. (2006) Toxicol. Sci. 89:93-107.