鶏の新興感染症であるStreptococcus gallolyticus subsp. gallolyticus 感染症の我が国での発生確認

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要約

細菌性心内膜炎や肝臓・脾臓の壊死巣形成を主徴とするS. gallolyticus subsp. gallolyticus 感染症が我が国でも発生している。

  • キーワード:鶏、心内膜炎、Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticus、グラム陽性菌
  • 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

Streptococcus bovis 菌群は哺乳動物などの正常細菌叢を構成する菌群であるが、コアラの腸内などから分離される没食子酸を分解する一群がS. gallolyticus と命名され、現在までに3亜種(Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticus, S. gallolyticus subsp. macedonicus, S. gallolyticus subsp. pasteureanus )に分類されている。本菌種は市販の同定キットではS. bovis と同定されてしまう。本菌種はヒトの心内膜炎、髄膜炎、敗血症などの臨床材料からの分離例も報告されており、公衆衛生上で重要な菌種であったが、近年、欧州において鶏の敗血症等の原因になることが明らかとなり注目されている。
   本研究では、臨床的に健康な鶏の心内膜炎および肝臓・脾臓の病変部からほぼ純培養的に分離されたグラム陽性球菌が、Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticus であることを明らかにし、本菌感染症が我が国においても発生していることを示している。分離菌は、市販の同定キットでS. bovis と同定されるが、16S rRNA遺伝子の塩基配列決定と、タンニン酸および没食子酸の分解能試験を行うことによって、Streptococcus gallolyticus subsp. gallolyticusと同定できる。

成果の内容・特徴

  • イボ状心内膜炎または肝臓・脾臓に壊死巣を呈した20羽の鶏の病変部(図1)からほぼ純培養的にα溶血性レンサ球菌が分離され(図2)、市販の同定キットではS. bovis と同定される。
  • 本菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列(1,504 bp)を決定したところ、S. gallolyticus subsp. gallolyticus ATCC43143株の16S rRNA遺伝子の配列(アクセッション番号:AF104114)と99.9~100%の相同性を示す。S. bovis 群から本菌種を区別するsodA 遺伝子を標的とするPCR (J. Clin. Microbiol. 42:1360-1362, 2004) でも、本菌はS. gallolyticus と同定できる。
  • タンニン酸及び没食子酸代謝能(J. Clin. Microbil. 42:4912-4913, 2004)とゲノムハイブリダイゼーションの結果、調べた25株全てが亜種gallolyticus と同定できる。このうち2株はこれまでに報告のないタンニン酸のみを代謝するパターンを示す(表1)。

成果の活用面・留意点

  • Streptococcus 属菌による鶏の感染症を明らかにした我が国初の例である。本菌はヒトの感染症からも分離されることから、新たな人獣共通感染症の原因となる可能性も示唆する。
  • デンマークでのS. gallolyticus subsp. gallolyticus 感染症の発生に引き続き我が国でも発生が確認されたことは、今後世界的にも多発する可能性を示唆しており、鶏の新しい疾病として広く周知する必要がある。
  • 病性鑑定においては、図3の手順により本菌を同定できる。

具体的データ

図1 病鶏の肉眼病変。肝臓の壊死巣(A, B)、心臓弁膜のイボ状病変(C, 矢印部)、脾臓の壊死巣(D) 図2 S. gallolyticus subsp. gallolyticusのグラム染色像

表1 分離菌(Okuchi-1, Okuchi-2)と3亜種の各基準株または参考株のタンニン酸と没食子酸代謝能図3 S. gallolyiticus subsp. gallolyticusの同定手順

 

その他

  • 研究課題名:細菌・寄生虫感染症の診断・防除技術の高度化
  • 課題ID:322-e
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007年度
  • 研究担当者:関崎 勉、西屋秀樹(鹿児島県大口食検)、高松大輔、大澤 朗(神戸大)
  • 発表論文等:Sekizaki et al. (2008) Avian Dis. 52: 183-186.