ウマHalicephalobus gingivalis 感染症の診断

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要約

ウマHalicephalobus gingivalis 感染症の確定診断には、特徴的に反転する子宮を持つ雌成虫を病変中にみつける必要がある。組織学的に、小型線虫を伴う多発性肉芽腫性腎炎と髄膜脳脊髄炎を呈することが多い。

  • キーワード:Halicephalobus gingivalis、土壌線虫、肉芽腫性腎炎、髄膜脳脊髄炎、ウマ
  • 担当:動物衛生研・疫学研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

Halicephalobus gingivalis (旧名Micronema deletrixHalicephalobus deletrix)感染症はウマとヒトの致死性の寄生虫性疾患である。ウマでは北米を中心に世界各地でみられるものの、その発生は少ない。日本では、1981年に東京都で発生した症例がM. deletrix  感染症として報告されているだけで、その病理学的特徴と診断基準は不確定なままであった。その後、2000年、2003年に石川県、2006年茨城県で本 症罹患馬が相次いで確認された。そこで、これらの症例に共通する臨床症状や病理学的所見の特徴をみつけ、有効な診断法と診断手順の確立の一助とすることを 目的とする。

成果の内容・特徴

  • 症例は、11歳中半血種去勢馬、10歳サラブレッド種去勢馬および10歳シェットランドポニー種去勢馬の3頭であり、その臨 床経過、病理学的所見はほぼ共通していた。今後、本感染症を疑う症例を診断する時に、考慮する必要がある事項について病性鑑定を実施する順に以下にまとめ る。
  • 臨床的に、食欲不振、沈鬱、四肢の浮腫、発熱、旋回運動、頭部下垂、流涎、転倒を伴う運動失調、遊泳運動、意識混濁などを呈し、安楽殺あるいは死亡する。
  • 日本脳炎、ウエストナイルウイルス感染症との類症鑑別のために、ウイルス学的検査を実施する。
  • 剖検では、腎臓に多発性の灰白色、融合性の肉芽腫性結節(図1)がみられ、小脳に微小壊死巣が認められる。
  • 組織学的に、多発性から彌慢性の肉芽腫性腎炎病巣(図2)内にH. gingivalis の雌成虫、幼虫および虫卵が、多数みられる(図3)。この雌成虫は、特徴的に反転する子宮を持つ。虫体周囲に多数の類上皮細胞と多核巨細胞がみられ、その外側には形質細胞が散在する。
  • 同様の線虫は、浅頚リンパ節、腎リンパ節、小脳などの肉芽腫性あるいは壊死性病巣ならびに脳脊髄髄膜の血管病巣に認められる。大脳では同虫体とともに囲管性細胞浸潤、出血、髄膜炎が認められる。
  • 腎臓の肉芽腫をホモジナイズしメチレン青染色にて観察すると、多数のH. gingivalis が認められる。
  • 補助的診断法として、リボソームRNA遺伝子の大サブユニットの塩基配列解析により、H. gingivalis であることを証明できる。

成果の活用面・留意点

  • ウマHalicephalobus 感染症に関する情報は、病性鑑定を実施するうえで、診断に活用できる。
  • 病理発生メカニズムの解明、生前診断法、治療法、予防法を確立する必要がある。

具体的データ

図1. Halicephalobus gingivalisによる多発性黄白色肉芽腫性腎炎がみられる。

図2. 多発性から彌慢性の肉芽腫性腎炎。 図3. 病変に複数のHalicephalobus gingivalisの虫体が認められる

 

その他

  • 研究課題名:家畜および野生動物における家畜病原体の分布と疾病動態の解析
  • 課題ID:322-h
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2007年度
  • 研究担当者:芝原友幸、門田耕一、石川義春、久保正法、高井光(石川県南部家保)、赤上正貴(茨城県県北家保)、清水稚恵(北海道檜山家保)、吉賀豊司(佐賀大学農学部)
  • 発表論文等:
    1) Shibahara T. et al. (2002) Vet Rec. 151 (22): 672-674.
    2) 高井ら(2005)日本獣医師会雑誌58 (2): 105-108.
    3) 高井ら(2005)馬の科学, 42 (5): 321-331.
    4) Akagami M. et al. (2007) J. Vet. Med. Sci. 69 (11):1187-1190.