乳牛潜在性乳房炎に対するリポソーム包埋rbGM-CSFの治癒効果
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要約
黄色ブドウ球菌由来潜在性乳房炎に対して、リポソーム包埋rbGM-CSFと非包埋rbGM-CSFの治癒効果を比較すると、リポソーム包埋rbGM-CSFの方が治癒効果が高い。
- キーワード:乳牛、黄色ブドウ球菌、潜在性乳房炎、rbGM-CSF、リポソーム包埋rbGM-CSF
- 担当:動物衛生研・生産病研究チーム
- 連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
顆粒球・マクロファージの活性化や増殖作用を持つ牛組換えサイトカインのrbGM-CSFは感染早期(軽度)の潜在性乳房炎に対
しては治癒効果があるが、感染が長引き慢性化すると、治癒効果が弱まることが指摘されている。そこで、比較的感染期間が長い潜在性乳房炎罹患牛を用い、リ
ポソームで包埋したrbGM-CSFを乳房内に留置させて徐放的に放出させることにより、効率的な乳房炎治癒効果の誘導を試みる。
成果の内容・特徴
- 黄色ブドウ球菌(S. aureus)由来潜在性乳房炎に罹患している泌乳中期のホルスタイン牛12頭(乳汁
体細胞数(SCC); 平均約70万cells/ml、感染期間;
平均60日)を用いた。6頭にリポソーム包埋(包埋)rbGM-CSF(400μg/5
mlリポソーム液)を、残り6頭に包埋なしの(非包埋)rbGM-CSF(400μg/5
ml生食)を罹患乳房に投与した。両群とも、rbGM-CSF投与7日前に対照液(リポソーム液又は生食液)を投与した(図1の破線)。
- 治癒効果の認められる牛の定義として、rbGM-CSF投与14日目にCMT陰性、SCCが20万cells/ml以下としたところ、治癒効果の認められた牛は包埋群、非包埋群とも3頭ずつであった。
- 直腸温は、何れの物質投与においても一過的に0.1~0.4℃上昇した。日乳量は、明らかな影響を受けなかった。
- カリフォルニアマスタイティステスト(CMT)値は、包埋、非包埋サイトカイン共に6時間目~3日目に上昇したが、そのレベルは包埋群の方が常に有意に低い値を維持した(図1、CMT値)。
- 乳汁化学発光能(CL能)とSCCは、包埋、非包埋サイトカイン投与後、共に3日目まで高い値を示したが、14日目には投与前より低い値となったが、そのレベルは包埋群の方が常に有意に低い値を推移した(図1,乳汁CL能、SCC)。
- S. aureus 数は、包埋群、非包埋群共に投与後6時間~1日目に大きく減少したが、群間で有意の差はなかった(図1,S. aureus 数)。
- 包埋rbGM-CSFの乳房内投与直後(6時間後)の乳汁CL能の上昇率は、乳房炎治癒牛の方が非治癒牛よりも高いことから、治癒牛乳房での白血球の活性上昇が示唆された(図2)。
- 以上の結果は、rbGM-CSFをリポソームで包埋して乳房内投与することにより、黄色ブドウ球菌由来潜在性乳房炎の治癒効果が高まることを示している。
成果の活用面・留意点
- DDSを応用したサイトカインによる乳房炎治療は、抗生物質のみに頼らない乳房炎の治療法の1つとして今後期待できる。
- 組換えサイトカインは、食品の安全性について不明確な点があるので、実用化のためにはこれらの問題を解決する必要がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:生産病の病態解析による疾病防除技術の開発
- 課題ID:212-k
- 予算区分:委託プロ(健全畜産)
- 研究期間:2005~2007年度
- 研究担当者:高橋秀之、菊 佳男、尾澤知美、山中晴道、上田 久、犬丸茂樹、櫛引史郎、須藤まどか、新宮博行、長谷川三喜、四十万谷吉郎、中村真弓(栃木県県央家保)、北崎宏平(福岡県農総試)、保田立二(岡山大)
- 発表論文等:
1)Takahashi et al.(2007) Proceedings of Heifer Mastitis 1: 58-59.
2)高橋ら(2007)日本乳房炎研究会報11: 15-20.
3)菊ら(2007)日本乳房炎研究会報11: 21-26.