新型牛パピローマウイルス(BPV-9, BPV-10)の全ゲノム構造の解明

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要約

北海道から関東地方にかけて集団発生した牛乳頭腫症の原因と考えられる2種類の牛パピローマウイルス(BPV)の全ゲノム構造を解析したところ、いずれもグザイパピローマウイルス属の新型BPV(BPV-9、BPV-10)に分類される。

  • キーワード:BPV-9、BPV-10、乳頭腫症、牛パピローマウイルス、ゲノム解析
  • 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

牛パピローマウイルス(BPV)は、現在1~8型が報告されており、この内1~6型は、牛の体表皮膚や粘膜に感染して乳頭腫症を 引き起こす。近年、北海道、東北、関東地方の牧場で集団発生した牛乳頭腫症は、乳頭部に激しい腫瘍病変を形成するために搾乳を障害し、酪農の阻害要因と なっている。この原因として2種類の新型BPVの関与が示唆されているが(平成17年度動物衛生研究成果情報)、ウイルスの詳細な遺伝学的解析は行われて いない。本研究は、集団発生事例の乳頭腫病変からBPVを分離し、そのゲノム構造を解明することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 北海道の乳頭腫集団発生事例より採取した乳頭腫病変部から2種類のBPV遺伝子を分離し、7303塩基対(bp)および7399 bpの全ゲノム塩基配列を決定した。
  • 両ウイルスゲノムは、初期遺伝子(E)領、後期遺伝子(L)および転写調節領域(LCR)から構成され、また、タンパク質をコードするすべての遺伝子が同一鎖(センス鎖)に偏在するなど、パピローマウイルス科に共通した特徴的な構造を有している(図)。
  • 主要な外殻タンパク質の遺伝子は既知のBPVに対して57.2~74.2%および56.5~71.2%の相同性を示すにとどまることから新型BPVと定義され、塩基配列を基にした分子系統樹解析によりグザイパピローマウイルス属に分類される。
  • 両ウィルスは、それぞれBPV-9およびBPV-10と命名される。

成果の活用面・留意点

  • グザイパピローマウイルス属に2種類の新型ウイルスが加わり、新たなパピローマウイルスの分類体系が構築される。
  • 新型BPVのゲノム構造が全て明らかになったことで、BPVの遺伝子診断技術の発展が期待される。

具体的データ

図. BPV-9およびBPV-10の全ゲノム構造

 

その他

  • 研究課題名:北海道における乳頭限局性乳頭腫の集団発生について病因の解明および疫学調査
  • 課題ID:322-g-01-001-00-H-07-01
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006-2007年度
  • 研究担当者:畠間真一、菅野徹、石原涼子、前田友起子(北海道石狩家保)、信本聖子(北海道十勝家保)、和田好洋(北海道網走家保)、長内利佳(宮城県登米家保)、芝原友幸、門田耕一、内田郁夫
  • 発表論文等:
  •    1) Hatama et al. (2008) J. Gen. Virol. 89, 158-163
       2) 畠間 (2008) 農林漁業金融公庫ホームページ「技術の窓」
       3) Maeda et al. (2007) Vet. Microbiol. 121:242-248
       4) 畠間ら (2007) 臨床獣医 第25巻第1号:29-33
       5) 畠間ら (2007) 畜産技術 第623号:30-33
       6) 畠間 (2007) Daily Japan 第52巻第15号:30-32
       7) 畠間 (2007) 宮城県獣医師会誌 第60巻4号, 134-138