牛に異常産を起こすアイノウイルスの流行様式
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要約
アイノウイルスのゲノム分節は遺伝的に安定しているが、近縁のウイルスとの間で遺伝子再集合を起こすことがある。遺伝子解析結果は本ウイルスの流行動態解明に有用である。
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キーワード:ウシ、アルボウイルス、アイノウイルス感染症、分子疫学
- 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
- 連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
アイノウイルスは吸血性節足動物によって媒介されるアルボウイルスの一種であり、牛の流早死産や先天異常子牛の出産を引き起こし
て畜産経営上多大な損失をもたらす。本研究では、1964年から2002年にかけて分離されたアイノウイルスのS
RNA分節の塩基配列をもとに分子疫学的解析を行い、その流行様式を明らかにしてアイノウイルス感染症対策に役立てることを目的とする。
成果の内容・特徴
- 野外分離株36株のS RNA分節ヌクレオカプシドタンパク質コード領域は、分離年や地域に関わらず良く保存されており、核酸レベルで92%以上、アミノ酸レベルで98%以上の相同性を示す。
- 当該遺伝子はアイノウイルスと同じオルソブニヤウイルス属に分類されるKaikalur、Shuni、Peatonおよび
Sangoウイルスとの間でも核酸レベルで90%以上、アミノ酸レベルで96%以上の高い相同性を示す。1986年以降に分離された日本株は
Kaikalurウイルスに、オーストラリア株(B7974株)はPeatonウイルスにより近縁である。
- 図1に
示すとおり、分子系統樹解析によって日本株は1964年に分離されたJaNAr28株と1986年以降に分離された株の2つのグループに分けられる。
1986年以降の分離株は、さらに1995年を境に2つのサブグループに分けられ、日本では流行毎に単一の遺伝子型が広がっていると推察される。
B7974株はPeatonウイルスとともに他のアイノウイルスとは異なるグループに含まれる。
- アイノウイルスは遺伝的に安定しており、同一地域あるいは近隣地域で流行する近縁のウイルスとともに進化を続けていると考えられる。一
方、アイノウイルスB7974株は、Peatonウイルス由来のS
RNA分節を有することから、オーストラリアにおいてアイノウイルスとPeatonウイルスの間で起こった遺伝子の交換(遺伝子再集合)によって生まれた
と考えられる。
成果の活用面・留意点
- 新たに分離されたアイノウイルスの遺伝学的・疫学的特徴を把握するために有用な基礎データとなる。
- 近隣諸国の協力の下に国や地域を越えたウイルスの流行動態を調査する必要がある。
具体的データ

その他
- 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
- 課題ID:322-g
- 予算区分:競争的研究資金(科振調)
- 研究期間:2004~2008年度
- 研究担当者:山川 睦、梁瀬 徹、白藤浩明、加藤友子、津田知幸
- 発表論文等:Yamakawa et al. (2008) Vet. Microbiol. 129:40-47