豚マイコプラズマ肺炎で多量に産生されるIL-18は宿主の細胞性免疫を攪乱する

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要約

豚マイコプラズマ肺炎において、肺の局所で多量に産生されるインターロイキン18(IL-18)は、プロスタグランディンE2(PGE2)の産生を誘導して宿主の細胞性免疫応答を攪乱する。

  • キーワード:豚、マイコプラズマ肺炎、インターロイキン18、免疫攪乱
  • 担当:動物衛生研・次世代製剤開発チーム
  • 連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

マイコプラズマは人を含め種々の動物に感染し、肺炎等の粘膜感染症を惹起する病原体であり、動物種が異なっても病理学的特徴は非常に類似しているため、マイコプラズマ感染に共通の発病機構や感染防御機構が存在すると考えられている。豚マイコプラズマ肺炎を引き起こすMycoplasma hyopneumoniae  (Mhp)は、国内の養豚場に広く浸潤し、養豚産業に多大な被害を与えるとともに、他の2次感染病原体の感染リスクや抗生物質の使用量を高めて、食の安全 をも脅かす重要な病原体である。本研究は、豚マイコプラズマ肺炎を研究することによりマイコプラズマ肺炎の発病機構を解明することを目的として、宿主の細 胞性免疫の調節に重要なサイトカインの1つであるインターロイキン18(IL-18)の発現とその作用を明らかにしている。

成果の内容・特徴

  • 豚マイコプラズマ肺炎の実験感染モデルにおいて、IL-18は肺炎病変の進行にともなって肺胞洗浄液(BALF)中への産生量が有意に増加するが、IL-18により産生誘導されるインターフェロンγ(IFN-γ)の産生量は逆に低下する。
  • IL-18は、肺炎病変部から分離した肺単核球細胞(LMC)に多量に含まれ、培養上清中へ分泌されるが、同じ豚の末梢血単核球細胞(PBMC)からは分泌されず、肺病変部で多量に産生される(図1)。
  • 肺炎の進行に伴うBALF中のMhp特異的抗体応答は、感染後約2週間から認められるが、IgG2応答よりもむしろIgG1応答を主体とするもので、Th2型の免疫応答の増強が示唆される。
  • 抗豚IL-18モノクローナル抗体を用いた免疫染色では、肺炎病変部に集積するマクロファージや形質細胞が陽性に染色される(図2)。
  • 肺炎病変部から分離したLMCは、宿主の多様な細胞性免疫応答を攪乱する作用が報告されているプロスタグランディンE2(PGE2)も多量に産生し、その産生およびLMCの増殖はIL-18の添加により有意に増強される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、豚マイコプラズマ肺炎におけるIL-18の動態を明らかにした初めての報告であり、IL-18がIFN-γ誘導因 子としてではなく、むしろ炎症性サイトカインとして機能することを示し、豚マイコプラズマ肺炎における、IL-18を介した宿主の病態形成過程および Mhpの持続感染機構に新たな知見を提供する。
  • 豚マイコプラズマ肺炎の防御には、宿主の細胞性免疫を活性化させる方策が必須であり、本研究の知見は、今後のワクチン開発やサイトカインの製剤利用に重要な手がかりを与える。

具体的データ

図1  LMCおよびPBMCにおけるIL-18の発現 図2 IL-18免疫染色像

 

図3(A)培養LMCからの経時的なPGE2産生(B)IL-18によるPGE2産生増強効果(C)LMC細胞のIL-18による増殖

 

その他

  • 研究課題名:生体防御能を活用した次世代型製剤の開発
  • 課題ID:322-i
  • 予算区分:委託プロ(BSE・人獣)
  • 研究期間:2003-2007年度
  • 研究担当者:宗田吉広・皆川 遊、永田礼子、下地善弘、森 康行
  • 発表論文等:Muneta et al. (2006) J. Interferon Cytokine Res. 26: 637-644.