わが国の牛群におけるSalmonella Dublin 薬剤感受性の変化
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要約
30年間にわたって収集したS. Dublin株の薬剤感受性動向は、1980年代半ばのナリジクス酸(NAL)製剤の動物薬市場導入が、わが国の牛群におけるNAL耐性株の増加につながったことを示唆する。
- キーワード:Salmonella Dublin、キノロン耐性、gyrA 変異、AcrAB-TolC
- 担当:動物衛生研・安全性研究チーム
- 連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:行政・参考
背景・ねらい
Salmonella Dublinは牛に特異的であり、牛以外の動物からはほとんど分離されない。したがってS. Dublinの薬剤感受性は人医療分野における抗菌剤使用の影響を受けないと考えられる。そこで我々はわが国での初発以降、30年間にわたって収集したS. Dublin、168株の薬剤感受性を調べることで食用動物に対して抗菌剤を使用することが、どの程度耐性菌を選択するかとの命題に対する科学的評価を行うことを企図した。
成果の内容・特徴
- ナリジクス酸(NAL)耐性菌はNAL製剤が動物薬市場に導入された80年代半ば以降の分離株に多く認められる(図1、表1)。
- 90年代後半以降の分離株の多くはRプラスミドを持たず、カナマイシンとNALの2剤に耐性を示す。
- フルオロキノロン(FQ)製剤(エンロフロキサシン)が導入された90年代前半以降もFQ耐性菌は認められない(表1)。
- NALやFQを含むキノロン系薬剤耐性は細菌DNAの複製に関与するトポイソメラーゼのアミノ酸置換により引き起こされることが知られている。NAL耐性S. Dublinにはトポイソメラーゼ遺伝子gyrA にのみ、1種類のアミノ酸置換が認められるが、FQに対する最小発育阻止濃度(MIC)は一定でない。
- AcrAB-TolCシステムはサルモネラの主要な多剤排出ポンプである。gyrA 変異を正常に戻したgyrA 復帰変異株とAcrAB-TolCシステムの機能を欠落させたacrAB 欠失変異株を作出し、親株との間でキノロン系抗菌剤に対するMICを比較すると、NALについてはgyrA 復帰変異株の、FQについてはacrAB 欠失変異株のMIC減少幅が大きい(表2)。また、FQに対しては親株のMICが高いほどMIC減少幅も大きい(表2)。以上のことから、gyrA 変異菌の増加はナリジクス酸の市場導入によりもたらされたと推察される。また、AcrAB-TolCシステムはS. DublinのFQ抵抗性に関与すると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 80年代半ばのNAL製剤導入はNAL耐性S. Dublinの増加につながったと考えられる。食用動物に対する抗菌剤の慎重使用を強調する必要がある。
- 90年代前半のFQ製剤の動物薬市場導入はわが国の牛群におけるS. Dublinの薬剤感受性に影響を与えなかった。
具体的データ



その他
- 研究課題名:飼料・畜産物の生産段階における安全性確保技術の開発
- 課題ID:323-d
- 予算区分:厚労科研費
- 研究期間:2006~2008年度
- 研究担当者:秋庭正人、中岡祐司(北海道)、喜田宗敬(三重県)、石岡幸子、鮫島俊哉、吉井紀代、中澤宗生、内田郁夫、寺門誠致(共立製薬)
- 発表論文等:Akiba et al. (2007) J. Antimicrob. Chemother. 60: 1235-1242.