PCR-制限酵素断片長多型(RFLP)を用いた牛コロナウイルス遺伝子型別法
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要約
日本における牛コロナウイルス流行株はS遺伝子の塩基配列に基づく系統樹解析において4つの遺伝子型に分類される。新たに開発したPCR-制限酵素断片長多型(RFLP)解析は、従来法より簡便に発生の原因となったウイルスの遺伝子型を検査することが可能であり実用的な疫学解析手法となる。
- キーワード:ウシ、牛コロナウイルス、遺伝子型、PCR-制限酵素断片長多型(RFLP)
- 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:技術・普及
背景・ねらい
牛コロナウイルス(BCoV)は子牛や成牛の下痢、そして呼吸器病の原因となる。本ウイルス流行株はS遺伝子の塩基配列に基づく系統樹解析において4つの遺伝子型に分類される。しかし、ウイルス遺伝子配列の決定による系統樹解析は詳細な情報が得られるものの、時間や経費がかかり、また専用の高額精密機器が必要であるため、家畜保健衛生所等の現場での応用には限界がある。そこで短時間で比較的安価、そして多検体処理が行えるPCR-制限酵素断片長多型(RFLP)を利用した BCoV遺伝子型別法の開発を行う。
成果の内容・特徴
- 病原性や宿主域の決定にも関与するウイルス糖タンパクS遺伝子中には、ウイルス株により遺伝子多様性を示すpolymorphic region (411base)が存在する。この領域の配列を用いた分子系統樹解析により、国外株と分離株は4つの遺伝子型に分類される(図1)。
- 1999年から2008年の10年間に14道府県(北海道、山形県、栃木県、茨城県、富山県、石川県、岐阜県、和歌山県、大阪府、島根県、高知県、熊本県、鹿児島県、沖縄県)で発生した事例から分離した174株のウイルスは、polymorphic regionを含むRT-PCR産物の制限酵素AvaIIとEcoO65Iを用いたPCR-制限酵素断片長多型(PCR-RFLP*)解析により4つのパターンを示し、それぞれ分子系統樹解析で分類される4つの遺伝子型に対応した型別が可能である(図2)。
*PCR-RFLP: PCRで増幅したDNAを特定のDNA配列を認識する制限酵素によって切断したDNA断片の長さが株間で異なることを指し、またこれを検出する手法。
成果の活用面・留意点
- 各都道府県の家畜保健衛生所等においても牛コロナウイルス流行株の実用的な遺伝子型別が可能となり、各地域におけるウイルスの流行動態や伝播経路を把握するのに活用できる。
- 今回の解析結果は、BCoV国内流行株のS遺伝子配列が発生年によって異なっている事を示している。従って、今後もウイルス遺伝子が変異し、新たな遺伝子型ウイルスが出現する可能性があり、各地域における流行株の遺伝子性状の変動を監視する必要がある。
具体的データ


その他
- 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
- 課題ID:322-g
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2006~2008年度
- 研究担当者:菅野 徹、神吉 武(富山県東部家保)、畠間真一、石原涼子、内田郁夫
- 発表論文等:1)Kanno et al. (2009) J. Vet. Med. Sci. 71(1): 83-86
2)遺伝子データベース登録(AB277098-AB277153、AB450825-AB450917)