BSE罹患牛における脳幹機能障害の特徴

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要約

実験的に作出したBSE罹患牛では、BSEの症状の進行に伴い脳幹の特定部位において聴性脳幹誘発電位(BAEP)波形に特徴的な変化が起こる。このBAEP波形は、神経症状を示した牛にBSEの疑いがあるか否かを絞り込む有用な知見である。

  • キーワード:BSE、聴性脳幹誘発電位、臨床検査、脳幹機能障害、非侵襲的、牛
  • 担当:動物衛生研・生産病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

牛海綿状脳症(BSE)の確定診断は死後の脳材料を用いた異常プリオン蛋白質(PrPSc)の検出によって実施されており、現在のところ有効なBSEの生前診断技術は確立されていない。このため農場段階でBSEの可能性の有無を簡便に非侵襲的に絞り込むことが可能な臨床検査法の開発が切望されている。BSE罹患牛では脳幹において左右対称性の空胞変性やPrPScの蓄積が見られるなど特徴的な病変を形成することが知られている。我々は、これまで牛を立たせたままで非侵襲的に脳幹の機能検査をすることが可能な牛の聴性脳幹誘発電位(BAEP)測定法を開発している。本研究では、BSE罹患牛における脳幹機能障害の特徴についてBAEPを用いて解明するとともに臨床症状並びに脳幹病変との関連を解析することにより、BSEの臨床検査の可能性を検討する。

成果の内容・特徴

  • BSEプリオン脳乳剤を脳内接種した牛(実験的BSE罹患牛:11頭)では、接種から18-22ヶ月後に挙動変化など初期の臨床症状が見られ、接種から22-24ヶ月後に前肢の震えや起立不能等の神経症状を発症する。一方、健康牛由来の脳乳剤接種牛(対照牛:3頭)では、これらの症状は現れない。
  • BSE罹患牛は接種後の経過に伴って、BAEPのIII波(オリーブ核)とV波(中脳下丘)潜時の左右両側性の延長や波形の電位の低下といった脳幹機能障害の特徴が認められる(図)。特にV波の潜時は接種22ヶ月以降で左右両側性の延長の程度が著しい(対照群と比べてP<0.05で有意差有り)。
  • BSE末期に震え等の神経症状を示すBSE罹患牛では、BAEP波形の出現閾値が上昇(95dB以下の音圧で波形が消失)し、聴覚障害を併発する。
  • BSE罹患牛ではBAEPの潜時の延長が認められる脳幹部位(オリーブ核と中脳下丘)に強い空胞変性が認められており、BAEP波形の異常はBSE罹患牛の脳幹病変の特徴を反映しているものと考えられる。 (用語)潜時:音刺激を加えてからBAEP波形が出現するまでの時間

成果の活用面・留意点

  • 今回開発した方法は、農場現場で神経症状を示している牛について、BSEの疑いがあるか否かについて絞り込む臨床検査技術としての応用が期待される。
  • 今後、臨床検査法としての活用を進めるためには、BSE以外の牛の脳疾患や代謝性の神経障害との類症鑑別に関する症例データの積み重ねが必要である。

具体的データ

図プリオン脳内接種20、24ヶ月後のBSE罹患牛及び対照牛のBAEP波形

その他

  • 研究課題名:生産病の病態解析による疾病防除技術の開発
  • 課題ID:212-k
  • 予算区分:競争的研究資金(実用技術開発事業)
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:新井鐘蔵、岡田洋之、松井義貴(北海道根釧農試)、福田茂夫(北海道畜試)、尾上貞雄(北海道畜試)、草刈直仁(北海道畜試)
  • 発表論文等:1)Arai S. et al. (2009) Res. Vet. Sci. 87(1):111-114
                       2)新井鐘蔵(2009)臨床獣医27(2):40-45
                       3)新井鐘蔵ら(2008)特許出願2008-225257