マダニ体内における病原体伝搬関与分子
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要約
ヒトや動物に感染症をもたらすマダニの病原体媒介には、蛋白分解酵素の一種「ロンギパイン」が関与している。
- キーワード:病原体媒介者、マダニ、病原微生物
- 担当:動物衛生研・人獣感染症研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
マダニはヒトや動物のウイルス、リケッチア、細菌、原虫、寄生虫など極めて多岐多種類の病原微生物を媒介するが、その病原体媒介の仕組みについては不明である(図1)。本研究では、我が国に広く生息し、動物・ヒトに感染症をもたらすフタトゲチマダニにおける原虫媒介機構を分子レベルで解明し、マダニ個体内で構築されている病原微生物媒介の分子基盤を利用した新たなマダニ媒介感染症制圧技術の確立を図る。このため、マダニ遺伝子を網羅的に解析し、その中から、より深く病原体媒介に関与している分子を探索している。
成果の内容・特徴
- 人獣寄生性マダニのフタトゲチマダニの中腸から、加水分解酵素のロンギパインを同定した。
- ロンギパインはシステインプロテアーゼ活性を保有し、宿主血液成分消化に重要な役割を果たしている。
- ロンギパインは濃度依存的に殺バベシア原虫作用を発揮し、宿主細胞膜とは親和性がなく、原虫膜に特異的に結合する(図2)。
- 遺伝子操作によってロンギパインを作り出せないフタトゲチマダニを作出し、バベシア原虫感染イヌに付着、吸血させたところ、ロンギパインの発現が抑制されたダニでは吸血が阻害されると同時に、生存しているバベシア原虫が明らかに増加している(図3)。
成果の活用面・留意点
- マダニの病原微生物伝搬は、昨年度報告した低分子抗菌ペプチド(ロンギシン)などの他に、ロンギパインのようなプロテアーゼの関与があると考えられ、マダニが作り出している物質によって支えられている。
- 感染症を媒介する節足動物が保有する巧妙な生物機能をうまく利用すれば、これまでとは全く違った視点からマダニ媒介感染症に有効な画期的な制御手段が確立できる。
具体的データ



その他
- 研究課題名:新興・再興人獣共通感染症病原体の検出及び感染防除技術の開発
- 課題ID:322-a
- 予算区分:競争的研究資金(新技術創出)
- 研究期間:2004~2008年度
- 研究担当者:辻 尚利、八田岳士、藤崎幸蔵(鹿児島大)
- 発表論文等:1) Tsuji N. et al. (2008) PLoS Pathog. 4, e1000062.