牛疫ウイルス実験感染牛の病理学的特徴
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要約
牛疫ウイルスFusan株実験感染牛の病変は、主に消化管粘膜およびリンパ系組織に認められ、合胞体および細胞質内封入体形成によって特徴づけられる。病変の分布から、病牛の糞便、鼻汁、唾液、涙液、乳汁がウイルス感染源となる可能性が高い。
- キーワード:牛疫、Fusan株、病理、牛
- 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム、国際重要伝染病研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
牛疫は牛疫ウイルス(RPV)によって引き起こされ、偶蹄類動物に発熱や重篤な下痢を示す致死性急性伝染病である。本病は古くから日本を含む世界各地で頻繁に大流行を繰り返していたが、2004年から発生報告はなく国際連合食料農業機関(FAO)による世界牛疫撲滅計画が策定されている。一方、現存する小反芻獣疫、牛ウイルス性・下痢粘膜病および悪性カタル熱の病理学的所見は牛疫と類似しており、これらの疾病と牛疫の病理学的類症鑑別が重要である。しかし、牛疫の病理組織学的所見を詳細に解析した報告は少ない。本研究では、類症鑑別に資することを目的に、Fusan株実験感染牛の病理組織学的変化について詳細に解析を行う。
成果の内容・特徴
- 病理解剖学的検査では、全身の粘膜において充血、出血、びらん、潰瘍形成が様々な程度に観察される(図1)。また、本症例では腸間膜リンパ節で軽度の腫大が観察された。
- 病理組織学的検査では、病変は主として消化管粘膜およびリンパ系組織に認められる。
- 口唇および口腔粘膜、舌、第三胃では細胞質内封入体を伴う上皮有棘層の壊死と合胞体形成がみられる(図2)。第四胃から直腸では、粘膜上皮の単細胞性ないし巣状壊死が認められる。特に、回盲部から結腸において病変は重度で、びらん形成も観察される。これらの病変には合胞体形成および細胞質内封入体形成を随伴する。
- 消化管の角化上皮と同様の病変は鼻鏡、喉頭蓋、眼瞼に、腺上皮と同様の病変は気管から気管支および乳管においても観察される。これらの病変においても、合胞体形成および細胞質内封入体形成を伴う(図3)。
- 全身のリンパ系組織においては、濾胞の壊死(図4)、細網細胞ないし単核食細胞系細胞の過形成、合胞体および細胞質内封入体の形成が観察される。
- 以上の病理組織学的所見は糞便、鼻汁、唾液、涙液、乳汁が感染源となりうることを示す。
成果の活用面・留意点
- 牛疫ウイルスFusan株感染牛における病理組織学的所見の貴重な資料となる。
- 牛疫と小反芻獣疫、牛ウイルス性下痢・粘膜病および悪性カタル熱などの病理組織学的類症鑑別に有用な知見となる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:国際重要伝染病の侵入防止と清浄化技術の開発
- 課題ID:322-c
- 予算区分:人畜共通感染症等危機管理体制整備調査等委託事業
- 研究期間:2005~2007年度
- 研究担当者:木村久美子、播谷 亮、森岡一樹、深井克彦、川嶌健司、大橋誠一、坂本研一、吉田和生
- 発表論文等:木村ら(2009)動物衛生研研究所研究報告115: 1-14