ラクトフェリンによるプリオン複製阻害効果
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
ウシラクトフェリンは細胞における正常プリオン蛋白質のエンドサイトーシスを阻害するとともに、異常プリオン蛋白質と結合し、感染細胞におけるプリオン複製を抑制する。
- キーワード:プリオン、スクレイピー、ラクトフェリン
- 担当:動物衛生研・プリオン病研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
プリオン病は、ヒトおよび動物に発生する一群の致死性神経変性疾患である。現在までに、多くのプリオン複製阻害物質が報告されているが、その治療法は確立されておらず、治療薬開発は急務となっている。ラクトフェリン(LF)は牛乳の乳清画分から発見された、分子量約8万の鉄結合性糖蛋白質でありトランスフェリン(TF)ファミリーに属し、様々な生物活性のほかに、神経変性疾患においてアミロイドに結合することが報告されている。プリオンは凝集体を形成し、アミロイド様構造をとることから、LFのプリオン複製に及ぼす作用について、プリオン持続感染細胞(ScN2a58細胞)を用いて検討する。
成果の内容・特徴
- ScN2a58細胞培養液中のLF添加により、濃度・時間依存的にプリオンの減少が認められ(図1)、感染性の著明な減少も認められる。
- LF処理したN2a58細胞の細胞表面に正常プリオン蛋白質の集積が認められる(図2)。これは、正常プリオン蛋白質がエンドサイトーシスされるのを、LFが阻害することにより生ずる。
- LFは脳乳剤中のプリオンにより強く結合することが確認される(図3)。
- 以上の結果から、LFによるプリオン複製阻害に関して2つの機構が考えられる(図4)。
1)正常プリオン蛋白質がエンドサイトーシスされるのをLFが阻害する結果、基質の供給阻害がおこりプリオンが減少する可能性。
2)LFが正常プリオン蛋白質とプリオンに直接結合し、正常プリオン蛋白質からプリオンへの変換阻害が起こっている可能性。
(用語)エンドサイトーシス:細胞膜の陥入による小胞を介して、細胞が外環境から種々の分子を取り込む機構。
成果の活用面・留意点
- LFには抗菌・抗ウイルス活性、免疫調整活性、鉄吸収調節作用など、幅広い生物活性が知られているが、抗プリオン活性を示したのは本研究が初めてである。プリオン複製の阻害機構を調べることは、未解明な点が多いプリオン増殖機構の理解につながる。
- LFは脳乳剤中のプリオンと強く結合する性質を利用し、蛋白質分解酵素処理を行わない検出法の開発により、蛋白質分解酵素に非耐性プリオンの検出につながる可能性がある。
具体的データ




その他
- 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
- 課題ID:322-d
- 予算区分:競争的研究資金(科振調費)
- 研究期間:2004~2008年度
- 研究担当者:岩丸祥史、清水善久、今村守一、村山裕一、田川裕一、竹之内敬人、木谷 裕、毛利資郎、
横山 隆、岡田洋之
- 発表論文等:Iwamaru et al.(2008) J.Neurochem.107(3):636-646