抗プリオンタンパク質モノクローナル抗体の開発と単鎖型抗体の作出

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要約

モノクローナル抗体T1およびT2は異常プリオンタンパク質の検出に有用であり、T2は牛海綿状脳症のスクリーニング検査キットや確定診断に活用できる。単鎖型T2抗体はプリオン増殖抑制効果を示し、プリオン病防除技術の研究に有用である。

  • キーワード:プリオンタンパク質、モノクローナル抗体、単鎖型抗体
  • 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム、プリオン病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

プリオンタンパク質(PrP)と特異的に結合できる抗体は、プリオン病の診断や防除技術の高度化を進展させていく上で有用である。プリオン病罹患動物において異常プリオンタンパク質(PrPSc)を免疫学的に検出する診断技術の改良やプリオン増殖抑制作用をもつ抗体を利用した治療技術の開発を目指して、PrPに対する新規モノクローナル抗体(mAb)を開発するとともに、抗体遺伝子をクローニングして単鎖型抗体の作出を行う。

成果の内容・特徴

  • PrP遺伝子ノックアウトマウスを組換えマウスPrPで免疫することにより、抗PrP mAbを効率よく作出できる。
  • 作出した2種類のmAb(T1およびT2)はいずれもマウス、ハムスター、ヒツジ、ウシ、シカ、ヒトの全てのPrPと反応し、PrPScの免疫学的検出に利用できる(図1)。
  • T2はプリオン持続感染細胞(ScN2a)培養への添加により、極めて高いプリオン増殖抑制効果を示す(50%阻止濃度: 0.02μg/ml)(図2)。
  • T2はハイブリドーマ細胞から抗体遺伝子可変領域をクローニングして、単鎖型可変領域フラグメント(scFv)抗体として発現することが可能である(図3)。
  • scFv化した抗体遺伝子はサイズが小さくなるため、遺伝子操作が容易となる。動物細胞発現用ベクターを用いた遺伝子導入によって樹立したscFv T2抗体安定産生神経芽腫細胞とScN2a細胞の共培養において、プリオン増殖抑制効果が観察される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • T2は日本で開発された牛海綿状脳症診断用ELISAキットに利用されており、わが国の牛海綿状脳症確定診断に用いられる抗体の一つとして採用されている。作出されたmAbはさまざまな動物種のPrPと反応することから、プリオン病研究の資材として有用である。
  • 試験管内の実験であるが、T2はプリオン増殖を既存抗体と同等以上に抑制する。そのscFv抗体にもプリオン増殖抑制効果が認められるので、抗体遺伝子を活用してプリオン病防除技術を検討するための有用な研究資材となりうる。

具体的データ

図1 モノクローナル抗体の各動物種由来PRPscとの反応

図2 mAbT2と既存抗体プリオン増殖抑制効果の比較

図3 単鎖型抗体(scFv)の作出

図4 分泌発現scFvT2抗体によるプリオン増殖抑制効果

その他

  • 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322d
  • 予算区分:委託プロ(BSE・人獣)
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:田川裕一、清水善久、牛木祐子(ニッピバイオマトリクス研)、岩丸祥史、村本 環(東北大)、北本哲之(東北大)、横山 隆、毛利資郎
  • 発表論文等:Shimizu Y. et al. (2010) Microbiol. Immunol. 54 (2):112-121