線毛関連遺伝子のプロファイリングによるStreptococcus suis強毒株の識別

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要約

3種類の線毛関連遺伝子をPCRでプロファイリングすることで、従来のMLST法より安価で簡便に豚や人に対して疾病リスクの高いStreptococcus suis強毒株を識別することが出来る。

  • キーワード:豚レンサ球菌症、Streptococcus suis、線毛関連遺伝子、MLST、強毒株識別
  • 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

Streptococcus suisは豚レンサ球菌症の主要な原因菌であり、人獣共通感染症の原因菌としても注目されている。S. suisの型別法のうち、Multilocus Sequence Typing(MLST)法は、疾病リスクの高い株集団(ST1およびST27 complex)をその他の株と識別するのに有用な方法である。しかし、MLST法は時間と費用がかかり、さらには高価な機器が必要なため、検査現場でのS. suis強毒株識別法としては適切でない。これらの問題の解決のため、本研究では、より安価で簡便なPCRを用いたS. suis株の線毛関連遺伝子プロファイリングによる強毒株識別法の開発を目指す。

成果の内容・特徴

  • S.suisで存在が明らかになっているsrtBCD領域、srtE領域、srtF領域およびsrtG領域の4つの線毛関連遺伝子群のうち、srtBCD領域の線毛関連遺伝子群がST1 complexの株に、srtG領域の線毛関連遺伝子群がST27 complexの株に偏って分布する(図1)。
  • 線毛関連遺伝子のうち、srtBCD領域のsbp2srtE領域のsep1およびsrtG領域のsgp1の3遺伝子の有無をPCRでプロファイリングすると、ST1 complexに属する株はsbp2+/sep1-/sgp1-のプロファイルに、ST27 complexに属する殆どの株はsbp2-/sep1-/sgp1+のプロファイルになる。また、その他のプロファイルパターンを示す殆どの株はST1およびST27 complexのいずれにも属さない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • MLST型別を行うためには、17種類の遺伝子のPCRでの増幅、2増幅したPCR産物の塩基配列の決定、3コンピュータ上での塩基配列データの整理、4MLSTホームページ上での型別結果の判定、という4つのステップを経る必要がある。一方、本研究成果で提唱している線毛関連遺伝子プロファイリング法(Pilus-Associated Gene Profiling法、PAGP法)では、3種類の線毛関連遺伝子の有無をPCRで確認するだけで、疾病リスクの高いST1およびST27 complexに属する殆どの株をMLST法より遥かに簡便かつ安価に識別できる。
  • PAGP法は株の病原性(危険性)を推測する方法であり、個々の株の病原性を正確に決定する方法ではない。しかし、その簡便性から本法は、家畜保健衛生所や食肉衛生検査所等でのS. suis強毒株のスクリーニング法として適しており、強毒株保有個体や強毒株分布農場のモニタリング等に応用できる。

具体的データ

図1 MLST型別結果と線毛関連遺伝子の分布状況の関係

表1 線毛関連遺伝子プロファイルとMLST型別結果の関係

その他

  • 研究課題名:細菌・寄生虫感染症の診断・防除技術の高度化
  • 中課題整理番号:322e
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:高松大輔、西野弘人(茨城県県北家保)、石地智乃(富山県西部家保)、石井 淳(兵庫県姫路家保)、大崎慎人、大倉正稔、Nahuel Fittipaldi(モントリオール大獣医)、Marcelo Gottschalk(モントリオール大獣医)、Prasit Tharavichitkul(チェンマイ大医)、高井伸二(北里大獣医)、関崎 勉(東京大農)
  • 発表論文等:Takamatsu D. et al. (2009) Vet. Microbiol. 138(1-2):132-139