豚胸膜肺炎菌血清型1、2及び5の型別用マルチプレックスPCRの開発

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

莢膜合成遺伝子を標的にしたマルチプレックスPCRにより、日本での主要な流行血清型である豚胸膜肺炎菌の血清型1、2及び5を簡便かつ正確に遺伝学的に型別できる。

  • キーワード:豚胸膜肺炎菌、型別、マルチプレックスPCR、血清型1、2及び5、莢膜合成遺伝子
  • 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

豚の重要な呼吸器病の原因菌である豚胸膜肺炎菌(学名:Actinobacillus pleuropneumoniae。以下Appと略す)は、主に菌体表層の莢膜の抗原性に基づき15の血清型に型別される。流行している血清型は国、地域及び農場によって異なり、日本で分離される血清型はほとんど血清型1、2または5である(分離株の88%以上)。病原性の強弱は血清型間で異なり、またワクチン効果に血清型特異性が認められることから、本菌の血清型別は重要な検査項目である。しかし、型別用抗血清は市販されていないため、血清型別を実施できる検査室は少ない。さらにいくつかの血清型間で交差反応がしばしば認められ、正確な型別をできないことがある。そこで、日本での主要な流行血清型である血清型1、2及び5を遺伝学的に簡便かつ正確に型別できるマルチプレックスPCRの開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 新たに開発した莢膜合成遺伝子を標的としたマルチプレックスPCR によって、App血清型1、2及び5を遺伝学的に、簡便かつ正確に型別できる。PCR反応液の組成及びPCRの反応条件をそれぞれ図1及び2に示す。PCR終了後、反応液10μLをアガロース電気泳動に供試し、特異的DNA増幅の有無とそのサイズを確認する。
  • App血清型1~15の参考株を上記マルチプレックスPCRに供試すると、血清型1、2及び5の参考株からはそれぞれ約0.75 kb、0.5 kb、1.1 kbの特異DNAが増幅されるが、他の血清型参考株からは、DNAは増幅されない(図3)。
  • App血清型1(n=15)、2(n=53)、5(n=15)、7(n=11)、8(n=3)、10(n=2)、12(n=3)及び型別不能(n=4)の野外分離株を上記マルチプレックスPCRに供試すると、血清型1、2及び5の野外分離株からはそれぞれ約0.75 kb、0.5 kb、1.1 kbの特異DNAが増幅されるが、血清型7、8、10、12及び型別不能の野外分離株からは、DNAは増幅されない。
  • 本法は型別用抗血清が不要であり、特異性も高い事から、簡便かつ正確に分離株の血清型を推定できる。

成果の活用面・留意点

  • 本法は、PCRを利用して純培養された病原体の型別を行う方法であり、型別用抗血清を保有しない検査機関では、分離株が日本での主要な血清型である血清型1、2、5であるかどうかを遺伝学的に型別するための簡易検査法として使用できる。
  • 型別用抗血清を保有する検査機関では、従来の抗血清を用いた血清型別の際に、交差反応が認められた場合には、有用な補助検査法として本法を使用できる。

具体的データ

図1 豚胸膜肺炎菌血清型1、2及び5の型別用マルチプレックスPCRの反応液の組成

図2 豚胸膜肺炎菌血清型1、2及び5の型別用マルチプレックスPCRの反応条件

図3 豚胸膜肺炎菌血清型1、2及び5の型別用マルチプレックスPCR

その他

  • 研究課題名:環境・常在性疾病の診断と複合防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322g
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(健全養豚)
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:伊藤博哉
  • 発表論文等:Ito H. (2010) J. Vet. Med. Sci. 72(5) :653-655