デキストラン鉄製剤投与の小型ピロプラズマ病貧血軽減効果

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要約

小型ピロプラズマ原虫実験感染牛の貧血進行期にデキストラン鉄製剤を10日間連日投与することにより、貧血極期における赤血球数減少の緩和、および貧血回復期における赤血球容積比と血色素量の改善に効果がある。

  • キーワード:小型ピロプラズマ病、貧血、デキストラン鉄、治療、牛
  • 担当:動物衛生研・細菌・寄生虫病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

牛の小型ピロプラズマ病は主に放牧で問題となるダニ媒介性原虫病である。発病牛の損耗は主要症状である貧血の程度に依存することが知られており、貧血が緩和されれば損耗が軽減されることが期待される。そこで、抗貧血薬である市販デキストラン鉄製剤(鉄剤)の本病貧血に対する効果について、原虫感染試験により検証する。

成果の内容・特徴

  • 小型ピロプラズマ原虫実験感染牛の貧血進行期に鉄剤(1日1回鉄として1g)を10日間筋肉内投与すると、貧血極期(投与開始後2~3週)における赤血球数(a)、および貧血回復期(同6~8週)における赤血球容積比と血色素量(b)が非投与対照群に比べて大きい。すなわち、貧血進行の緩和と貧血回復の改善に効果がある。
  • 鉄剤投与群の血清鉄濃度は連日投与期間中と投与開始後7~10週の2峰性に非投与対照群に比べ増加する(c、牛の血清鉄濃度正常値は57-162μg/dL)。赤血球メトヘモグロビン濃度(血液酸化傷害の指標)の推移が鉄剤投与群と非投与対照群で同様であったことから、今回の投与量では投与鉄が原因となる血液酸化は生じないと考えられる。
  • 血液中の鉄量の変動について非投与対照群の数値を基に計算すると、貧血進行過程で血清鉄として0.24mg/dL増加するが、血色素減少によって19.37mg/dLが消失する。発病牛において体外への鉄排泄はほとんどないことから、血液から消失した鉄の大部分が組織内に貯蔵されると推定される。

成果の活用面・留意点

  • 小型ピロプラズマ病発病牛への鉄剤の応用にあたっては、抗原虫薬との併用により投与回数を減らすなど効果的な投薬法について検討する必要がある。また、放牧環境下における鉄剤連用の安全性について、特に筋肉への残留、胎子への影響等の副作用、および過剰鉄による細菌増殖がないか慎重に検証する必要がある。
  • 小型ピロプラズマ病発病牛においては多くの鉄が組織内に貯蔵され、造血に利用可能な鉄が不足していることが考えられる。発病牛の鉄代謝動態について詳細に解析する必要がある。

具体的データ

図1 小型ピロプラズマ原虫実験感染牛の赤血球数(a)、血色素量(b)、血清鉄濃度(c)、原虫寄生率(d)の推移

その他

  • 研究課題名:細菌・寄生虫感染症の診断・防除技術の高度化
  • 中課題整理番号:322e
  • 予算区分:基盤(重点強化)、実用技術
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:中村義男、金平克史、花房泰子、塩野浩紀、大田方人、神尾次彦
  • 発表論文等:中村ら(2010)動衛研研究報告、116:1-10