Salmonella Typhimurium DT104は百日咳毒素様のADP-リボシル化酵素を産生する
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要約
Salmonella Typhimurium ファージ型DT104が産生する蛋白質ArtAは細胞内の情報伝達分子である百日咳毒素感受性のGTP結合蛋白質をADP-リボシル化することから、病原因子としての可能性が注目される。
- キーワード:牛、サルモネラ、病原因子、百日咳毒素、ADP-リボシル化
- 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
人の食中毒や家畜のサルモネラ症の原因菌として注目される多剤耐性Salmonella Typhimurium (ST)ファージ型104(DT104)は、1990年頃から国内の牛群に侵入したが、同時期に下痢を主徴とする成牛のサルモネラ症も顕在化している。
われわれはDT104の新たな病原因子獲得を疑い、その検索を行い、DT104の溶原ファージが百日咳毒素(ADP-リボシル化酵素)遺伝子と相同性を示す遺伝子artA及びartB(artA/artB)を保有することを見出している。本研究では、これらの遺伝子がコードする蛋白質ArtA及びArtBが実際に百日咳毒素と同様のADP-リボシル化酵素活性を示すことを証明する。
成果の内容・特徴
- 百日咳毒素は毒素活性を担うAサブユニットと、これを細胞内に輸送するBサブユニットの複合体である。これらA及びBサブユニットと相同性を示すArtA及びArtBは、過酸化水素を培地に添加することによりDT104の培養上清中に誘導的に発現させることができる(図1)。
- 百日咳毒素活性はcAMP合成酵素アデニル酸シクラーゼ(AC)の活性を調節するGTP結合蛋白質(G蛋白質)のうちAC抑制性G蛋白質をADP-リボシル化することにより、その活性化を妨げることで発現される。DT104培養上清中のArtA/ArtB複合体及び試験管内で合成したArtAは、百日咳毒素に感受性のG蛋白質をADP-リボシル化する活性を示し、この活性は易熱性で、活性発現にジチオトレイトール(DTT)を必要とし、百日咳毒素の性状と一致する(図2)。
- DT104の培養上清中のArtA/ArtB複合体は百日咳毒素と同様にCHO細胞の集塊形成活性を示す(図3)。
成果の活用面・留意点
- ArtAは百日咳毒素と同様にAC抑制性G蛋白質をADP-リボシル化する酵素であることが明らかとなったことから、ArtA/ArtB複合体が、下痢を主徴とする牛サルモネラ症の病原因子として機能している可能性が考えられる。今後、これらの意義を解明する必要がある。
- DT104の分離数は現在減少傾向にあるが、DT104以外のSTにも低率ながらartA/artB保有株が見られるため、これらの菌によるサルモネラ症の流行を監視する必要がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
- 中課題整理番号:322g
- 予算区分:委託プロ(生産工程)
- 研究期間:2008~2009年度
- 研究担当者:内田郁夫、石原涼子、田中聖、秦英司、牧野壮一(帯畜大)、菅野徹、畠間真一、木嶋眞人、秋庭正人、渡部淳、窪田宜之
- 発表論文等:Uchida I. et al. (2009) Microbiology 155(11):3710-3718