九州地方および台湾は同一の牛流行熱ウイルス流行圏に含まれる

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要約

牛流行熱ウイルスG遺伝子(中和抗原である糖タンパク質をコードする遺伝子)の分子疫学的解析結果は、九州地方および台湾が同じ牛流行熱ウイルス流行圏に含まれることを示している。

  • キーワード:牛、アルボウイルス、牛流行熱、分子疫学、抗原性
  • 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

我が国には、蚊やヌカカなどの吸血性節足動物によって媒介され、家畜に熱性疾患や異常産等を引き起こす様々なアルボウイルスが毎年のように流行し、畜産業に多大な経済被害を与え続けている。牛流行熱は、発熱、呼吸促迫、乳量低下などの症状を示す牛の急性熱性感染症で、監視伝染病に指定されている。ワクチンの開発によって、その発生は減少したが、2001年には沖縄県で約1400頭の発症牛が認められている。本研究では、牛流行熱ウイルス野外分離株のG遺伝子の塩基配列を分子疫学的に解析するとともに、抗原性の変化の程度を調べる。

成果の内容・特徴

  • 1966~2004年にかけて国内で分離された株のG遺伝子は、分離年代に関わらずよく保存されている。また、台湾分離株と非常に近縁であり、年代に応じてより高い相同性(99%以上)が認められる。一方、日本・台湾分離株とオーストラリア分離株との相同性は89~91%と低い。
  • 図1に示すとおり、分子系統樹解析によって日本、台湾およびオーストラリア分離株は4つのグループに分類される。日本・台湾分離株は、ともに1980年代の株からなるグループ~Tと、1990年代以降の株からなるグループ~Uの2つに大別され、1966年山口県で分離されたYHL株およびオーストラリア分離株は、それぞれ単独のグループ~Vおよび~Wを形成する。
  • これまで日本と台湾ではほぼ同時期に牛流行熱の発生がみられており、本病が流行するたびに単一かつ同一の遺伝子型のウイルスが両国に広がっていったと考えられる。これは、日本(とくに九州地方)と台湾が同じ牛流行熱ウイルス流行圏に含まれることを示している。
  • 4つの遺伝子グループの代表株とその抗血清を用いた交差中和試験では、株間で抗原性の差が確認される(表1)。しかし、ワクチンの原株であるYHL株に対する抗血清は自身と同程度に他の国内分離株を中和することから、現行ワクチンは最近の流行株に対しても有効である。

成果の活用面・留意点

  • 今後、牛流行熱が発生した場合の診断や疫学調査、ワクチンの改良に向けて有用な基礎データとなる。
  • 近隣アジア諸国の協力を得て調査範囲を拡大し、国・地域を越えたウイルスの流行動態を把握していく必要がある。

具体的データ

図1 牛流行熱ウイルス G 遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹

表1 交差中和試験による牛流行熱ウイルス株の抗原性の比較

その他

  • 研究課題名:環境性・常在性疾病の診断と総合的防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322g
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:山川 睦、加藤友子、相澤真紀(沖縄県)、梁瀬 徹、白藤浩明、津田知幸
  • 発表論文等:
    1) Kato T. et al. (2009) Vet. Microbiol. 137(3-4):217-223
    2) 相澤ら (2008) 日本獣医師会誌、61(5):363-366