健康乳牛由来志賀毒素産生大腸菌株O群血清型の最近10年間での変化

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要約

健康乳牛から分離される志賀毒素産生大腸菌はそのO群血清型が10年間で大きく変遷している。また、抗菌薬剤に対する耐性化傾向を示している。

  • キーワード:乳牛、志賀毒素産生大腸菌、O群血清型、STEC
  • 担当:動物衛生研・疫学研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

志賀毒素産生大腸菌(STEC)のうち主にO157、O26あるいはO111等がヒトに重篤な下痢や食中毒を起こすことが知られている。これらの血清型STEC株は健康な牛や緬山羊などの反芻獣からの分離頻度が高い。一方、反芻獣の腸内には多種類のO群血清型STEC株が存在することが報告されているが、国や地域により、また報告された時期により、分離されるSTEC株のO群血清型は異なっている。
本研究では1998年に国内各地の健康乳牛から分離したSTEC株と、2007年にほぼ同一地域の健康乳牛から分離した株についてO群血清型の分布と変遷について考察する。また、この期間におけるSTEC株の薬剤感受性変化を調べる。

成果の内容・特徴

  • 供試した1998年分離STEC株は78農場の健康乳牛358頭の直腸便材料から分離した92株であり、25種の既知O群血清型と不明O群血清型(18株)に型別された。型別されたO群血清型のうち該当株数の最も多かったのはO26であり、次いでO113、O8、O84、O116の順である(図1:青棒)。
  • 供試した2007年分離STEC株は128農場の健康乳牛932頭の直腸便材料から分離した118株であり、31種の既知O群血清型と不明O群血清型(15株)に型別された。その内訳はO8が最も多く、次いでO153、O2、O26、O117、O163の順である(図1:オレンジ棒)。
  • 薬剤平板希釈法で実施した薬剤感受性試験の結果、1998年分離STEC株の薬剤耐性株は8株(8.7%)で、うち6株が単剤耐性、残りの2株がABPC・DSM(薬剤略称は表1覧外を参照)またはOTC・DSMの2剤耐性であるのに対し、2007年分離株は28株(23.7%)が薬剤耐性を示し、うち8株が3剤以上の耐性、13株が2剤耐性である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 乳牛由来STEC株の主たるO群血清型としてO113やO116等が知られているが、2007年分離株での調査ではこれらの血清型株の分離は僅かであり、今まであまり分離されなかったO2やO153等のO群血清型株が数多く検出された。このことから、牛腸管内でのO群血清型フローラの多様性が示唆され、既成観念にとらわれない細菌検査の実施が望まれる。
  • 乳牛由来STEC株で耐性がみられる薬剤は主として従来から使用されている古典的なものであるが、薬剤耐性化が進行していることから、さらなる薬剤の慎重使用が望まれる。

具体的データ

図1 1998年および2007年に健康乳牛から分離されたSTEC株のO群血清型割合

表1 2007年分離健康乳牛由来STEC薬剤耐性株(n=28)の耐性薬剤パターン

その他

  • 研究課題名:家畜および野生動物における家畜病原体の分布と疾病動態の解析
  • 中課題整理番号:322h
  • 予算区分:食品評価
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:小林秀樹、金崎未香、尾川寅太(福岡県)、伊豫田淳(感染研)、工藤由起子(医食衛研)
  • 発表論文等:Kobayashi H. et al. (2009) J. Vet. Med. Sci. 71(3):363-366