牛培養肝細胞を用いたダイオキシン様化学物質分析手法の開発
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要約
牛初代培養肝細胞のCYP1A1およびCYP1B1遺伝子の発現量を指標としたリアルタイムRT-PCRによるダイオキシン様化学物質の分析手法を開発した。本法は臭素化ダイオキシン類や環境中の低レベルのダイオキシン類の分析に有用である。
- キーワード:ダイオキシン、臭素化ダイオキシン、リアルタイムRT-PCR、初代培養肝細胞
- 担当:動物衛生研・安全性研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
牛などの経済動物では、ダイオキシンなど環境汚染物質の生体と畜産物への影響を動物試験によって評価することは費用や管理の観点から困難である。また環境中には多種類のダイオキシン様化学物質が存在していることから、これら化学物質が複合的に生体に作用し、ダイオキシン様毒性を示すと考えられる。
動物を用いた毒性試験の代替法として、げっ歯類細胞を用いた分析法が開発されているが、ダイオキシン様化学物質に対する感受性が牛ではげっ歯類と異なっている可能性が考えられ、牛由来細胞を用いた分析法の確立が急務である。
本研究では、牛初代培養肝細胞を用いてリアルタイムRT-PCR法によりチトクロームP450(CYP1A1およびCYP1B1)遺伝子の発現量を検出する手法を開発し、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)の他、臭素化ダイオキシン類について分析を行う。また、飼料原料である魚油について、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析装置(HRGC/HRMS)により算出されるダイオキシン毒性等量(TEQ)と上記遺伝子発現量との相関を検討する。
成果の内容・特徴
- 牛初代培養肝細胞にTCDDを24時間作用させると、CYP1A1およびCYP1B1mRNA量は用量依存的に上昇し、ダイオキシン類を鋭敏に、かつ定量的に検出できる(図1)。CYP1A1およびCYP1B1の50%効果濃度(EC50)は各々204、816pMであり、CYP1A1はCYP1B1に比べ、約4分の1量のTCDDで誘導される。
- 飼料用魚油によるCYP1A1 mRNA発現量は、HRGC/HRMSによって求められたダイオキシン類の毒性等量とよく相関している(図2)。
- 臭素化ダイオキシン類によるCYP1A1およびCYP1B1 mRNAの発現量は、用量依存的に上昇するが(図3)、分子種ごとの相対発現量は、実験動物等で報告されている毒性の強さとは必ずしも一致しない。ダイオキシン様化学物質に対する感受性は、牛とげっ歯類等では異なっている可能性がある。
成果の活用面・留意点
- 本分析法は、家畜飼料等におけるダイオキシン類およびその他の臭素化ダイオキシン類の簡便、迅速、低コストなスクリーニング法として用いることができる。
- 臭素化ダイオキシン類の牛に対する毒性がげっ歯類に対する毒性と異なることを明らかにした知見は、WHOで数年おきに行っている毒性等価係数(TEF)再算定の際の重要な情報となる。
具体的データ



その他
- 研究課題名:飼料・畜産物の生産段階における安全性確保技術の開発
- 中課題整理番号:323d
- 予算区分:委託プロ(有害化学物質)
- 研究期間:2003~2007年度
- 研究担当者:グルゲ・キールティー・シリ、山中典子、宮崎 茂
- 発表論文等:Guruge et al. (2009) Toxicology Letters. 185(3):193-196