鳥インフルエンザウイルスのH5, H7遺伝子を幅広く検出するリアルタイムPCR
要約
プライマー・プローブに混合塩基を用いることで、H5, H7遺伝子との間の塩基ミスマッチ数が減少し、幅広く、高感度にこれらの遺伝子を検出することができる。
- キーワード:鳥インフルエンザ、診断、リアルタイムPCR
- 担当:動物衛生研・人獣感染症研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
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分類:技術及び行政・普及
背景・ねらい
鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子は変異しやすく、血清学的あるいは遺伝学的に16種類の亜型(H1~H16)に分けられている。さらに、HA遺伝子は同一亜型であってもユーラシア系統とアメリカ系統に大別されており、それぞれの系統内に大きな多様性がある。したがって、同一亜型に属す全てのHA遺伝子を漏れなく検出することは難しい。我々は、家禽において検出された場合には殺処分の対象となるH5およびH7亜型ウイルスのHA遺伝子を幅広く検出できる、精度が高いリアルタイムPCR法を開発し、幅広い検出の分子基盤を解明した。
成果の内容・特徴
- 多様なH5遺伝子の塩基配列を比較すると、ある部位の塩基が例えばAの株とGの株が混在している場所がある(AT[A, G]CTA……)。その部位に混合塩基であるR(A or G)を用いたプライマーを設計すれば(ATRCTA……)、両株を検出することができる。このような混合塩基を含むプライマー/プローブが使用されているために、本法では多様なH5(50株)とH7(30株)遺伝子を幅広く検出できる。また、他のHA亜型遺伝子(H1~H4, H6, H8~H16, 275株)とは交差せず、特異性も高い。
- H5/H7遺伝子の検出限界はそれぞれ102.4(最小値1.5~最大値3.7), 102.7(1.5~3.75) EID50で、混合塩基を用いても感度は低下しない。
- プライマー/プローブに混合塩基を含ませれば、多様なH5/H7遺伝子を幅広く検出できるが、混合塩基を含まないとその数は減少し、検出遅延(図では
)や未検出(図ではΧ)が増える。
- 変異が小さく、遺伝子数の基準となるヌクレオプロテイン(NP)の検出後、5サイクル以内で検出されるH5、H7の遺伝子数(図では
)は、混合塩基を用いた場合にはそれぞれ19/20、19/19であるが、用いない場合は5/20、10/19と少ない(図)。
- H5/H7遺伝子との塩基ミスマッチ数がプライマーまたはプローブ当たり2個以内であれば、遺伝子の検出遅延や未検出は起こらない。
- プライマー/プローブに含ませる混合塩基数が5個以内であれば、遺伝子の検出感度や増幅量に影響しない。
- 本プライマー/プローブセットは遺伝子バンクに登録されているH5遺伝子(2,112株)とH7遺伝子(607株)のほぼ全てを検出できると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 混合塩基を用いることで、多様なH5/H7遺伝子を幅広く、高感度に検出できるが、プライマー(またはプローブ)との塩基ミスマッチ数が3個以上のH5/H7遺伝子は検出することが難しい。
- 検査材料として、尿膜腔液、スワブ、臓器乳剤上清などを使用できる。
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検出限界以下の場合は、発育鶏卵を用いて培養してから再検査する必要がある。
具体的データ

その他
- 研究課題名:鳥インフルエンザウイルスの迅速亜型判定技術の開発
- 中課題整理番号:322a
- 予算区分:委託プロ(鳥フル)
- 研究期間:2008~2010年度
- 研究担当者:塚本健司、野口大悟、鈴木耕太郎、宍戸牧子、芦澤尚義(千葉県)、Min-Chul
Kim、Youn-Jeong Lee、多田達哉
- 発表論文等:1) Tsukamoto K. et al. (2010) J. Clin.
Microbiol. 48(11):4275-4278