プリオンの異種動物への馴化に伴う異常プリオン蛋白質の構造変化
要約
マウスの異常プリオン蛋白質(PrPSc)の立体構造を特異的に認識するモノクローナル抗体(mAb 3B7)とスクレイピープリオン継代マウスの脳内のPrPScの反応性の変化は、プリオンの馴化に伴うPrPScの構造変化と関連している。
- キーワード:プリオン、PrPSc特異抗体、スクレイピー、異種間伝播
- 担当:動物衛生研・プリオン病研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
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分類:研究・普及
背景・ねらい
プリオンの異種動物への伝達においては、宿主の正常プリオン蛋白質(PrPC)と外来の異常プリオン蛋白質(PrPSc)のアミノ酸の一次配列の違いに起因する「種の壁」が存在する。一方、プリオンは継代によって新たな宿主に馴化し、潜伏期間が短縮することが知られている。本研究は、PrPScの構造を特異的に認識するモノクローナル抗体(mAb)を作製し、その反応性を指標に、羊スクレイピープリオンのマウスへの馴化過程におけるPrPSc構造の違いを明らかにするとともに、プリオンの「種の壁」のメカニズムの解明を目指すものである。
成果の内容・特徴
- プリオン遺伝子欠損マウスにマウスPrPScを免疫して作出したPrPSc特異mAb 3B7は、免疫沈降法でマウスPrPScと反応するが、マウスPrPCとは反応しない(図1)。
- mAb 3B7は、羊PrPSc、牛PrPScとは反応しなかった。この結果は、マウスPrPScと羊PrPScの間に立体構造の違いがあること、およびmAb 3B7が、マウスPrPScを特異的に認識することを示している。
- 羊スクレイピーを継代して、マウスへ馴化する過程のPrPScを検出したところ、汎PrP抗体を用いたウエスタンブロット法では、初代から5代まで同程度のPrPScの蓄積が認められる(図2)。
- mAb 3B7を用いたマウスPrPSc特異的ELISA法では、初代及び2代目のマウス脳内のPrPScは反応せず、3代目より反応が認められ、4、5代目では検出されるPrPScが増加する(図3)。このことは、馴化に伴い、PrPScがmAb 3B7と反応する構造に変化することを示している(図4)。
成果の活用面・留意点
- 新しく作出したmAb 3B7は、マウスPrPScを特異的に認識する。
- 羊、牛由来のPrPScはマウスPrPScとは異なる構造をとる。
- プリオンの異種動物への馴化(潜伏期の短縮)には3代以上の継代が必要である。
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プリオンの「種の壁」のメカニズムには、継代に伴うPrPScの構造変化が含まれる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
- 中課題整理番号:
322d
- 予算区分: 委託プロ(BSE)
- 研究期間:2008~2010年度
- 研究担当者:横山 隆、加来・牛木 祐子(ニッピ)、遠藤 良、岩丸 祥史、清水 善久、今村 守一、舛甚 賢太郎、山本 卓司(ニッピ)、服部 俊治(ニッピ)、糸原 重美(理研)、入江 伸吉(ニッピ)
- 発表論文等:Ushiki-Kaku et al. (2010) J.
Biol. Chem. 285 (16): 11931-11936.