牛肺炎における肺胞洗浄液中サーファクタント蛋白質D定量法の確立

要約

牛サーファクタント蛋白質D (SP-D) のELISAによる測定系を確立し、これを用いて肺炎牛から得られた肺胞洗浄液(BALF)中SP-D濃度を測定した結果、肺炎組織中でのSP-D量の増加を確認した。このELISAは牛肺炎におけるSP-Dの動態解析に有用な手法となる。

  • キーワード:子牛、肺炎、サーファクタント蛋白質D、ELISA
  • 担当:動物衛生研・生産病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

肺サーファクタント蛋白質D(SP-D)は、肺における自然免疫に重要な役割を持つ蛋白質であり、また肺特異的マーカーとして肺炎の診断や病態の把握に有効であることが期待されるが、牛ではまだ十分検討されていない。そこで本研究では牛SP-DのELISA による定量系を確立し、肺炎牛から得た肺胞洗浄液(BALF)中SP-D濃度の測定を行う。

成果の内容・特徴

  • BALFからマンノース-セファロース 6Bカラムを用いて精製した44 kDa蛋白質は、N-末アミノ酸分析の結果から、牛SP-Dである(図1)。
  • 牛血清中にはSP-Dとアミノ酸配列の相同性が高いコングルチニンという蛋白質が高濃度に存在する。そこで牛SP-Dのアミノ酸配列中から牛血液中コングルチニンと列相同性の低いペプチド(SDTRKEGT)を選定して、ウサギに免疫した。得られた抗血清は、精製牛SP-DおよびBALF中のSP-Dと特異的に反応し、牛血清と血清コングルチニンとは交差しない(図2)。
  • 牛SP-Dを検出するために、抗牛SP-Dウサギ血清からIgGを精製、一部をビオチン標識し、ビオチン-ストレプトアビジン系を用いたサンドイッチELISAを構築した。この測定法は定量範囲4~125 ng/ml、相対標準偏差は検査内 5.9%、検査間9.7%である。
  • ファイバースコープを用いて子牛の右肺前葉後部にBovine Adenovirus-3(BAV-3)あるいはMannheimia haemolytica(Mh)を接種し、実験的に肺炎牛を作製した。解剖後これらの右肺前葉後部および左肺前葉後部から得たBALF中SP-D濃度の測定を行った。その結果、BAV-3接種牛の場合、接種肺葉(右)BALF中SP-D濃度は、未接種肺葉(左)BALFあるいは、生理食塩水接種肺に比べて高く、5日後は特に高い(表1)。またMh接種牛でも、接種後1~4日間は、接種肺葉(右)BALF中SP-D濃度は、未接種肺葉(左)BALFあるいは、対照群の左右肺葉BALFに比べて、有意に上昇する(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 今回開発したELISAは、牛BALF中SP-D濃度測定に十分な感度と精度があり、肺炎におけるSP-Dの動態解析に有用な手段になる。
  • 今回用いた抗体はポリクローナル抗体であり、肺組織中のSP-D濃度を測定するには十分な感度があるが、血清中のSP-Dは検出できなかった。血清を用いた牛の肺炎診断のためには、モノクローナル抗体を用いたELISAの開発が必要である。

具体的データ

精製牛SP-DのSDS-PAGE M:マーカーA:SP-D抗牛SP-D抗体の特異性 A: 精製牛SP-D B: 牛BALF C: 牛血清

BAV-3接種牛におけるBALF中のSP-D濃度Mh接種牛におけるBALF中のSP-D濃度

その他

  • 研究課題名:牛呼吸器病における肺サーファクタント蛋白質の動態の解明
  • 中課題整理番号:212k
  • 予算区分:交付金(重点強化)
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:宮本 亨、山中晴道、播谷 亮、木村久美子、勝田 賢
  • 発表論文等:Miyamoto et al. (2010) J.Vet.Med.Sci.- 72 (10): 1337-1343