異常プリオン蛋白質は歯組織のマラッセの上皮遺残に蓄積する
要約
スクレイピー異常プリオン蛋白質は、歯組織のマラッセの上皮遺残に蓄積する。
- キーワード:歯組織、マラッセの上皮遺残、マウス、スクレイピー、プリオン
- 担当:動物衛生研・プリオン病研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-7708
- 区分:動物衛生
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
伝達性海綿状脳症(TSE)は、ヒトや動物における致死的な神経変性性疾患である。スクレイピー感染ハムスターの実験により、感染ハムスターの歯髄に感染性が証明されているが、歯組織における異常プリオン蛋白質(PrPSc)蓄積部位は明らかにされていない。このためスクレイピー感染マウスを用いて、歯組織内のPrPScの蓄積部位を免疫組織化学的手法を用いて明らかにする。
成果の内容・特徴
- 免疫組織化学的に、スクレイピーME7株感染マウスの切歯のマラッセの上皮遺残*にPrPScの蓄積が確認されたが、象牙芽細胞、セメント芽細胞、線維芽細胞、歯茎上皮細胞および歯髄においてはPrPScは検出されない(図1)。
- 上記のスクレイピー感染マウスの歯組織をマウスに脳内接種したところ、スクレイピー発症までに長期を要することから、歯組織におけるPrPSc蓄積量は脳に比べ大変少ない。
- 切歯のマラッセの上皮遺残に蓄積するPrPScは、脳から歯組織にかけて分布する脳神経を介し、神経終末があるマラッセの上皮遺残に伝播するものと考えられる。
- 神経支配割合の少ない臼歯のマラッセの上皮遺残にPrPScは検出されない(図2)。
成果の活用面・留意点
- スクレイピー感染マウスの歯組織におけるPrPSc蓄積は、切歯のマラッセの上皮遺残であることが示された。
- ヒトの孤発性CJDおよび変異型CJD患者の歯組織にPrPScは検出されていないことから、プリオンの種類によって蓄積部位に違いがあることが想定される。
- プリオンの種類による違いを評価するためには、他のTSE感染動物についても、歯組織におけるPrPScの蓄積を調べる必要がある。
* マラッセの上皮遺残:リンパ球に似た小細胞が索状をなすもので、胎生期の口腔上皮に由来するエナメル器の遺残である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
- 中課題整理番号: 322d
- 予算区分:委託プロ(BSE)
- 研究期間:2009~2010年度
- 研究担当者:岡田洋之、横山隆、毛利資郎
- 発表論文等:Okada, H. et al. (2010) J. Comp.
Pathol. 143 (2-3): 218-222