宿主域が広い組換えバキュロウイルスを効率的に単離する方法

要約

宿主域拡張バキュロウイルスを用いた組換え蛋白質の生産系では組換えウイルスの単離に労力を要する。蛍光蛋白質の発現ユニットを目的遺伝子と共にバキュロウイルスに組み込む新技術により組換えバキュロウイルスを短時間で確実に単離できる。

  • キーワード:組換えバキュロウイルス、宿主域、蛍光蛋白質、効率的単離
  • 担当:動物衛生研・次世代製剤開発チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

バキュロウイルスを用いた組換え蛋白質の生産系には、ヤガ科の昆虫を宿主とするウイルスとカイコを宿主とするウイルスが広く用いられているが、これらは宿主特異性が高くそれぞれの宿主以外には感染が成立しない。Moriら(J. Gen. Virol. 1992)はどちらにも感染できる宿主域拡張ウイルスを作製したが、このウイルスは相同組換えを行うことで生じる組換えウイルスと非組換え(野生型)ウイルスの識別には、感染細胞を3日以上培養した後でしか検出できない多角体の有無を顕微鏡下で確認するという不確実で労力のかかる方法しかない。そこで、蛍光蛋白質を用いて、目的遺伝子が組み込まれた組換え宿主域拡張ウイルスを簡便に判別し取得するための方法を確立する。

成果の内容・特徴

  • カイコアクチン3プロモーター、緑色蛍光蛋白質(enhanced green fluorescence protein; EGFP)遺伝子、simian virus 40ポリアデニレーションシグナル配列からなるEGFP発現ユニットを目的遺伝子挿入部位近傍に挿入した組換えバキュロウイルス作製用ベクターは、目的遺伝子(例として赤色蛍光蛋白質(DsRed2)を使用)を挿入した後、宿主域拡張ウイルスDNAと相同組換えを行うことにより、EGFP遺伝子と目的遺伝子が組み込まれた組換え宿主域拡張ウイルスが作製される(図1)。
  • EGFP遺伝子が導入された組換え宿主域拡張ウイルスがSf21AE細胞(ヤガ科ハスモンヨトウの近縁種由来の細胞株)に感染すると、アクチンプロモーターの働きにより48時間後にはEGFPによる蛍光が観察できるため、多角体の形成によらずにより早く非組換えウイルスと明確に区別できる(図2)。
  • 得られた組換え宿主域拡張ウイルスは異なる種由来の細胞株およびカイコに感染し、EGFPと目的蛋白質を発現するが(図3)、EGFP発現ユニットの有無は目的蛋白質の発現量には影響しない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 短時間で確実に組換え宿主域拡張ウイルスを取得することができる。
  • 取得した組換えウイルスによって、異なる宿主を用いた組換え蛋白質の多様な生産が可能となる。

具体的データ

組換え宿主域拡張ウイルスに EGFP発現ユニットが導入される

 

図2.ウイルスが感染したSF21AE細胞の顕微鏡写真

 

図3.昆虫細胞株およびカイコにおける蛋白質の発現

 

図4.目的蛋白質の発現量の比較

 

その他

  • 研究課題名:生体防御能を活用した次世代型製剤の開発
  • 中課題整理番号:322i
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:渡邉聡子、國保健浩、大田方人、犬丸茂樹
  • 発表論文等:1) Watanabe S. et al. (2010) J. Biosci. Bioeng. 110 (1): 66-68