唾液中のIgAは豚の非侵襲的ストレスマーカーの一つとなる

要約

豚の唾液中IgA濃度は急性拘束ストレス時に有意に上昇することから、非侵襲的なストレスマーカーとなりうる。IgAの産生細胞は唾液腺形質細胞であるが、IgA陽性細胞数は耳下腺で少なく、下顎腺や舌下腺で多くなり、ストレスによる交感神経刺激と関連する。

  • キーワード:唾液、IgA、アニマルウェルフェア、ストレス、非侵襲
  • 担当]動物衛生研・次世代製剤開発チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

近年ヨーロッパを中心にアニマルウェルフェアに対する関心が高まり、わが国でも2009年よりアニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針が公開され、快適性に配慮した家畜の飼養管理に対する対応が求められている。家畜の快適性やストレスを評価する手法の血液中のストレス因子(コルチゾール等)や行動学的因子(尾かじり行動等)の測定は、血液採取自体が動物にストレスを及ぼしたり、行動観察に長時間を要したりするといった欠点がある。一方、唾液はその採取が動物にとって非侵襲的であり、唾液の採取自体も簡単な用具で誰でも実施可能であるといった利点がある。しかし、家畜における唾液中のストレスマーカーの検討はこれまでほとんど行われていない。そこで、本研究では、唾液中の非侵襲的ストレスマーカーの確立を目的として、豚の急性拘束ストレス下における唾液中のIgAが非侵襲的ストレスマーカーになり得るか否かについて検討する。

成果の内容・特徴

  • 豚の行動を短時間拘束した急性拘束ストレスモデルにおいて、図1に示した方法で非侵襲的に採取した唾液中のIgA増加率は拘束開始後10分から有意に上昇し、拘束開始後20分でも高値を維持する。しかし、拘束終了後10分後には速やかに元のレベルに戻る(図2)。
  • 唾液中のIgA濃度には日内変動があり、午前9時には低値だが、午前11時から午後3時にかけて有意に上昇し、午後5時には再び低下する。
  • 唾液腺におけるIgAの発現細胞について、免疫組織染色を行うと、唾液腺内に散在する形質細胞がIgAを発現している。また、IgA陽性形質細胞数には各唾液腺間で差があり、唾液の水分や電解質成分を主に分泌し、副交感神経支配の強い耳下腺ではIgA陽性形質細胞数は少なく、主に唾液の蛋白質成分を交感神経支配下で分泌する下顎腺や舌下腺でIgA陽性形質細胞数が有意に増加する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 唾液中IgAは豚の急性ストレスの非侵襲的なストレスマーカーとして有用である。豚IgAを測定するキットは市販されているため、ストレスマーカーとして幅広く活用可能である。
  • 唾液中のIgA濃度には日内変動が存在することを考慮し、唾液の採取時間や給餌時間などに注意する必要がある。
  • IgAはストレスに伴う交感神経刺激に反応して唾液中に分泌されると考えられるが、その分子機構や慢性ストレスに対する影響は今後さらに解析が必要である。

具体的データ

豚からの唾液の採取方法 タコ糸に結びつけた脱脂綿を豚 に自発的に咀嚼させ、唾液を採 取急性拘束ストレス時の唾液IgA 増加率

各唾液腺におけるIgA 陽性形質細胞の免疫染色像

その他

  • 研究課題名:生体防御能を活用した次世代型製剤の開発
  • 中課題整理番号:322i
  • 予算区分: 交付金プロ(健全養豚)
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者: 宗田吉広、吉川忠雄(帯畜大)、皆川 遊、芝原友幸、前田龍一郎(帯畜大)、小俣吉孝(帯畜大)
  • 発表論文等:Muneta, Y. et al. (2010) J. Vet. Med. Sci. 72 (10): 1295-1300