ウエストナイルウイルスを媒介しうる蚊は我が国に広く分布する

要約

全国規模で実施したサーベイランスによると、我が国にはウエストナイルウイルス(WNV)が分布していないと考えられる一方で、WNVを媒介しうる種の蚊が国内に広く分布する。よって、今後もWNVの侵入に対する警戒が必要である。

  • キーワード:ウエストナイルウイルス、蚊媒介性感染症、野鳥、サーベイランス
  • 担当:動物衛生研・環境・常在疾病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

ウエストナイルウイルス(West Nile virus:WNV)は、自然界において蚊と野鳥との間で維持されているが、蚊を介してヒトおよびウマ等の動物に感染することで熱性疾患や脳炎を引き起こす。近年では北米においてWNVの大規模な流行が発生し、公衆衛生および動物衛生の両方に対して深刻な被害を及ぼしている。これまでのところ、我が国ではWNVが検出された例は無いが、流行地からの渡り鳥や輸入鳥類等を介したWNVの侵入が懸念されている。そこで、WNVの全国サーベイランスにおいて2004~2006年度に家畜飼養施設周辺で採取された蚊、ならびに家畜保健衛生所等へ搬入された死亡野鳥について、WNV遺伝子の検査を実施し、国内におけるWNVの分布の有無を調べる。また、WNVを媒介しうる種の蚊について、その分布状況を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 全国で3年間に採取された蚊(図1)および死亡野鳥(図2)の総数は、それぞれ32,145匹および742羽である。これらの全ての検体はWNV遺伝子陰性である。
  • 国内に生息するといわれるおよそ130種の蚊のうち、本サーベイランスでは14種が採取された。これらの種の中で、国内外の報告からWNV媒介能を有すると考えられる種の蚊は、コガタアカイエカ、アカイエカ群(アカイエカおよびチカイエカ)、ヒトスジシマカ、キンイロヤブカおよびヤマトヤブカの4種1群である。これらの種は、3年間に採取された蚊全体の63.43%を占めており(表1)、各都道府県で1種類以上が採取されている。従って、WNVを媒介しうる種の蚊は、国内に広く分布する。

成果の活用面・留意点

  • 本サーベイランスを実施した時点において、我が国にはWNVが分布していないと考えられる。
  • 今後、我が国にWNVが侵入した場合に、国内に生息する蚊が媒介者となって急速な感染伝播が起こると考えられる。よって、WNVの侵入に対する継続的な監視ならびに侵入時の早期検知が、ヒトおよび動物への被害を低減するために必要である。

具体的データ

図1.蚊の採取地および匹数

 

 

図2.死亡野鳥の採取地

 

 

採取されたWNV 媒介可能種の蚊の匹数および全体に占める割合

その他

  • 研究課題名:新興・再興人獣共通感染症病原体の検出及び感染防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322a
  • 予算区分:ウエストナイルウイルス感染症等特別対策事業
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:白藤浩明、金平克史、西口明子、神尾次彦
  • 発表論文等:1)Shirafuji, H. et al. (2011) Zoonoses Public Health, 58: 153-157