伝染性胃腸炎ウイルス中和抗体の大半は豚呼吸器コロナウイルス感染に起因

要約

国内6地域171農場のうち18%の農場において伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)を中和する抗体が検出されるが、その大半の農場においては、中和試験でTGEVと区別できない豚呼吸器コロナウイルスの感染に起因する抗体のみが検出される。

  • キーワード:伝染性胃腸炎ウイルス、豚呼吸器コロナウイルス、抗体陽性率
  • 担当:動物衛生研・ウイルス病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

届出伝染病に指定されている伝染性胃腸炎(TGE)は、TGEウイルス(TGEV)感染によって起こる、激しい下痢を主徴とする豚の急性疾病である。1980年代、中和試験でTGEVと区別できない豚呼吸器コロナウイルス(PRCV)が出現したことにより、中和試験によるTGEの監視が困難となった。そのため、海外でTGEV/PRCV抗体識別ELISAが開発されているが、日本では両ウイルスの広範囲な浸潤状況調査は実施されていない。本研究は、TGEV/PRCV抗体識別ELISAを使用して国内6地域におけるTGEVとPRCVの浸潤状況を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 全国6地域171農場2,703例の豚血清におけるTGEV中和抗体陽性率は農場別で18%、個体別で14%であり、地域差が認められる(図1)。
  • 抗体識別ELISAによる個体別の成績では、TGEV中和抗体陽性263例のうち78%がPRCV抗体陽性、13%がTGEV抗体陽性であり、TGEV中和抗体陽性例の多くはPRCV感染に起因することが示唆される。
  • 農場別の成績では、TGEV中和抗体陽性27農場中19農場(70%)でPRCV抗体のみ、7農場(26%)でTGEV抗体とPRCV抗体の両方、1農場(4%)でTGEV抗体のみが検出され、TGEV抗体が検出された農場は東北、北陸そして関東に存在している(図2)。また、TGEV抗体とPRCV抗体が両方検出された農場のうち1農場において、抗体調査から5カ月後にTGEが流行発生している。これらのことは、PRCVは国内に広く浸潤していること、PRCV陽性農場でもTGEV感染がおこり、TGEが流行発生する可能性があることを示唆している。

成果の活用面・留意点

  • PRCVが国内の豚群に広く浸潤しているため、TGEV中和抗体が検出される農場で必ずしもTGEの臨床症状が認められない。従って、TGEV抗体とPRCV抗体を識別する必要がある。
  • TGEV中和抗体陽性率は一般的に低く地域差もあるため、今後ともモニタリングによる感染動態の把握と衛生管理によるウイルスの伝播・侵入防止に努める必要がある。

具体的データ

日本の6地域における伝染性胃腸炎ウイルス中和抗体陽性率

 

各地域の伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)中和抗体陽性27農場におけるTGEV 抗体および豚呼吸器コロナウイルス(PRCV)抗体保有状況

その他

  • 研究課題名:ウイルス感染症の診断・防除技術の高度化
  • 中課題整理番号:322b
  • 予算区分:健全養豚
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:宮﨑綾子、久我和史(岐阜連獣大学院)、福田昌治(埼玉県)、鈴木 亨、髙木道浩、恒光 裕
  • 発表論文等:Miyazaki, A. et al. (2010) J. Vet. Med. Sci. 72 (7): 943-946.