2007年に実施された牛白血病ウイルス(BLV)浸潤状況調査

要約

全国各ブロックから7県の協力を得て、6ヶ月齢以上の牛5,420頭のBLV浸潤状況調査を行ったところ、25年前に比べて乳用牛で約8倍、肉用牛で約2倍の抗体陽性率の上昇がみられた。

  • キーワード:地方病性牛白血病、牛白血病ウイルス、浸潤状況調査、抗体検査
  • 担当:動物衛生研・ウイルス病研究チーム、疫学研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

牛白血病は、日本では1927年に初めて発生が報告されて以来、全国で発生が認められている。その発生数は平成13年までは年間200頭以下であったが、平成20年には1,000頭を超え、平成21年には1,369頭の発生となりその急激な増加傾向は止まらない。その多くは牛白血病ウイルス(BLV)の感染に起因する地方病性牛白血病(EBL)と考えられており、感染牛のうち数%が発症することを考慮すると、BLVは潜在的に我が国に広くまん延していることが懸念される。しかし、全国調査は1982年以来行われておらず、現在の浸潤状況は不明である。本研究は、急増するEBLの対策に資するために、我が国における現在の感染状況を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 東北、関東、中部、中国、九州の7県の協力を得て、6ヶ月齢以上の乳用牛3,966頭、肉用牛1,454頭(うち繁殖牛797頭、肥育牛657頭)の計5,420頭から得られた血清についてELISA検査により抗BLV抗体調査を実施したところ、陽性率は全体で28.6%、乳用牛で34.7%、肉用牛で11.9%(うち繁殖牛15.1%、肥育牛8.1%)である(表1)。
  • 抗体陽性牛の割合は、1982年に実施されたゲル内沈降試験による全国調査に比較して乳用牛で8.2倍、肉用牛で2倍増加しており、乳用牛での抗体陽性率の上昇を示している(図1)。
  • 年齢別抗体陽性率では、乳用牛、肉用牛ともに年齢が上昇するとともに陽性率が上昇しており、絶えず農場内で水平感染していることを示唆している(図2)。
  • 乳用牛では1歳未満で既に約16%に感染がみられることから、若齢期の感染防止が重要である(図2)。
  • 感染牛が1頭以上いる陽性農場における農場内平均陽性率は、酪農場は40.5%、繁殖牛農場は27.4%、肥育牛農場は14.9%である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 25年ぶりに牛白血病ウイルス抗体調査が実施され、乳用牛での著しい感染牛の増加が明らかになったことから、対策は乳用牛を中心に行われる必要がある。
  • 陽性農場内には、絶えずウイルスを感染拡大させる牛が存在することを認識する必要がある。
  • 本研究の成果は、平成21年度より開始された農林水産省委託全国牛白血病ウイルス浸潤状況調査につながっている。

具体的データ

表1.乳用牛および肉用牛における抗体陽性率

 

乳用牛および肉用牛の抗体陽性率年齢別抗体陽性率

 

 

表2.陽性農場における農場内抗体陽性率

その他

  • 研究課題名:レトロウイルス感染症における診断法の開発及び発病機構に関する分子生物学的解析
  • 中課題整理番号:322b
  • 予算区分:平成19年度人畜事業
  • 研究期間:2007年度
  • 研究担当者:村上賢二、小西美佐子、亀山健一郎、小林創太、筒井俊之、山本健久(農水省)
  • 発表論文等:Murakami K. et al. (2011) Veterinary Microbiology, 148: 84-88