馬の移動に伴う感染症の伝播リスクの評価

要約

競走馬以外の馬の移動によって感染症が伝播するリスクは、乗馬セクターと個人飼育セクターで飼養されている馬で高い。

  • キーワード:馬の飼養セクター、馬の移動、馬の感染症、感染症の伝播リスク
  • 担当:動物衛生研・疫学研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

馬の感染症対策を効果的・効率的に行うためには、馬の飼養施設間の感染症の伝播リスクを評価する必要がある。特に、動物の感染症の場合には、動物の移動が感染症の伝播の重要な要因となっている。本研究では、競走馬以外の馬の集団を飼養目的に応じたセクターに分類し、馬の移動頭数を分析することによって、セクター内及びセクター間で馬の移動を通じて感染症が広がるリスクを評価する。

成果の内容・特徴

  • 日本の主要な馬の産地である29県の全ての馬飼養施設(競走馬は除く)を対象に調査を行ったところ、馬の飼養施設は、馬の飼養目的に応じて、乗馬セクター、個人飼育セクター、展示セクター、肥育セクター及びその他の5つのセクターに分類される(図1)。
  • セクター内及びセクター間の馬の移動頭数を分析したところ(図2)、乗馬セクターは、セクター内での飼育を目的とした移動や馬術競技場等への一時的な馬の移動が頻繁に行われていたことから、乗用馬で感染症が発生した場合、乗馬施設間で感染が広がるリスクが高いと考えられる。
  • 個人飼育セクターは、飼育を目的とした移動が、セクター内での移動に加えて、肥育セクターや乗馬セクターに向けても多く行われていたことから、個人飼育馬で感染症が発生した場合、セクター内のみならず、セクター間でも感染が広がるリスクが高いと考えられる。
  • 展示セクターと肥育セクターについては、これらのセクターからセクター内や他のセクターの施設へ馬が移動することは非常に少なかったため、展示セクターや肥育セクターの馬で感染症が発生した場合、施設間で感染が広がるリスクは低いと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 馬の飼養セクターごとに、馬の移動に伴う感染症の伝播リスクを明らかにしたことは、馬の感染症対策やサーベイランスを検討する上で、有用な情報となる。
  • 飼養セクター内及びセクター間の馬の移動パターンの分析結果は、シミュレーションモデル等を用いた感染症の伝播リスクのより詳細な分析に活用可能である。

具体的データ

飼養セクター別の施設数と馬の飼養頭数

飼育を目的とした馬の移動頭数の割合

その他

  • 研究課題名:疾病及び病原体の疫学的特性解明による防除対策の高度化
  • 中課題整理番号:322h
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:早山陽子、小林創太、西田岳史、西口明子、筒井俊之
  • 発表論文等:Hayama Y. et al. (2010) J. Vet. Med. Sci. 72 (7): 839-844