豚B群ロタウイルスのNSP1は遺伝的に多様である

要約

豚B群ロタウイルスの宿主免疫制御に関わるNSP1は遺伝的に多様であり、少なくとも3つの異なる遺伝子型に分類される。遺伝学的分類は国内における本ウイルスの動向を調査・把握する上で有用となる。

  • キーワード:豚B群ロタウイルス、NSP1、遺伝的多様性、分類
  • 担当:家畜重要疾病・ウイルス感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚B群ロタウイルスは哺乳豚および離乳豚において下痢を引き起こす病原体の一つである。ロタウイルスは同じあるいは異なる動物種由来のウイルス間で遺伝子を交換し、新たなウイルスを生み出して下痢流行を繰り返している人獣共通感染症病原体である。そのため、未知の変異ウイルスの出現・蔓延に備えて、国内における豚B群ロタウイルス株の各遺伝子情報を明らかにし、遺伝学的に分類してそれらの動向を把握しておく必要がある。非構造蛋白質(NSP1)は宿主の免疫制御に関わるウイルス遺伝子であるが、豚B群ロタウイルスの本遺伝子情報はこれまで不明であったことから、野外で見つかった複数の豚B群ロタウイルス株について本遺伝子の塩基配列を解読し、遺伝学的分類を行う。

成果の内容・特徴

  • 国内の農場から見つかった豚B群ロタウイルス15株について、NSP1遺伝子の塩基配列を解読した。
  • 塩基配列から予想される蛋白質1および2に関して、豚B群ロタウイルス株間のアミノ酸配列一致率はウシあるいはヒト由来B群ロタウイルス株間におけるアミノ酸配列一致率に比べて、極めて低値を示すことから、豚B群ロタウイルスは遺伝的に多様である(表1)。
  • B群ロタウイルスのNSP1蛋白質1および2について、系統樹解析により遺伝学的分類を行ったところ、蛋白質1、2共に動物種毎に特定の遺伝子型に区別され、計7つの遺伝子型に分類される。中でも、豚B群ロタウイルスはそれらの遺伝的多様性を反映して3つの異なる遺伝子型に分類される(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 豚B群ロタウイルスの遺伝子を解読し、他の動物種由来ロタウイルスと比較・解析することで、本ウイルスの発生学的な位置付けが明らかとなると共に、これらの遺伝子がコードする蛋白質の機能や構造が推察でき、抗ウイルス薬等の開発につながることが期待できる。
  • B群ロタウイルスNSP1の遺伝学的分類は、未知の変異ウイルスが発生した際における遺伝子交換の検証に役立つと共に、国内のB群ロタウイルスの動向を追跡調査するために役立つと思われる。

具体的データ

表1. B群ロタウイルスNSP1蛋白質1および2の由来動物種毎のウイルス株間におけるアミノ酸配列一致率
図1. B群ロタウイルスNSP1蛋白質1(左)および2(右)に関する系統樹解析 点線で示す閾値に従って、遺伝子型を区別する。

(鈴木 亨)

その他

  • 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防御技術の確立
  • 中課題番号:170a1
  • 予算区分:厚労科研費
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:鈴木 亨、久我和史、宮崎綾子、恒光 裕
  • 発表論文等:Suzuki, T. et al. (2011) J.Gen.Virol. 92, 2922-2929