ヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius)基準株の全ゲノム配列の決定

要約

世界ではじめてミツバチのヨーロッパ腐蛆病の原因菌であるMelissococcus plutoniusの全ゲノム配列を明らかにした。これにより、ヨーロッパ腐蛆病の発病機構や本病の診断・予防に関する研究の飛躍的な進展が期待できる。

  • キーワード:ヨーロッパ腐蛆病、Melissococcus plutonius、ゲノム
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708 (情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ヨーロッパ腐蛆病はミツバチに無蓋蜂児の死亡を引き起こす感染症で、家畜伝染病予防法において法定伝染病に指定されている。原因菌のヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius)は、約100年前からその存在が知られていたものの、病原因子に関する情報は全くなく、本病の発病メカニズムについてもほとんど明らかになっていない。本菌では1株もゲノム配列が決定されておらず、そのこともM. plutonius研究の進展の障害となっていた。そこで本研究では、今後のヨーロッパ腐蛆病研究に有用な情報を得るため、M. plutonius基準株(ATCC 35311株)の全ゲノム配列の決定を行う。

成果の内容・特徴

  • M. plutonius ATCC 35311株のゲノムは1,891,014bpの環状の染色体と177,718bpの巨大なプラスミドpMP1から構成されている(図1)。
  • 染色体には蛋白質をコードしていると考えられる遺伝子が1,773個、tRNA遺伝子が61個、rrnオペロンが4つ、プロファージ様領域が1つ存在し、pMP1には蛋白質をコードしていると考えられる遺伝子が150個存在する(図1)。
  • ゲノム配列が既知の菌種の中で、M. plutonius ATCC 35311株と最も近縁なのはEnterococcus faecalisであるが、M. plutonius染色体のうち12%程度の領域でしかE. faecalisの染色体と相同性が見られない。
  • E. faecalisの病原性に関与していると考えられているaggregation substance、コラーゲン結合蛋白、細胞外表層蛋白Esp、細胞障害毒素、ゼラチナーゼ、セリンプロテアーゼSprE、線毛、Fsr菌体密度感知システムをコードする遺伝子と高い相同性のある遺伝子はM. plutonius ATCC 35311株には存在しない。
  • ヨーロッパ腐蛆病の発病メカニズムには近縁な病原細菌には存在しないM. plutonius独自の病原因子が関与している可能性が考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 決定したゲノム配列はDNA Database of Japan (DDBJ)のデータベースに登録および公開済である(アクセッション番号:AP012200 [染色体]、AP012201 [プラスミド])。
  • 公開済の配列データにはインターネットを通じて誰でもアクセスできるため、世界中で本研究成果を利用したヨーロッパ腐蛆病研究の進展が期待できる。

具体的データ

図1 M. plutonius ATCC 35311株ゲノムの概要

(高松大輔)

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題番号:170a2
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:高松大輔、奥村香世(帯畜大)、荒井理恵(岐阜大院、埼玉県)大倉正稔、切替照雄(国際医療研究センター研究所)、大崎慎人(農水省), 秋山 徹(国際医療研究センター研究所)
  • 発表論文等:Okumura K. et al. (2011) J. Bacteriol. 193:4029-4030