高病原性鳥インフルエンザウイルスの病原性は感染動物によって異なる

要約

高病原性鳥インフルエンザウイルスはハト、鶏、マウスに実験感染させるとそれぞれの動物で異なった致死性を示す。同一のウイルスの感染であっても動物が異なると動物体内でのウイルス増殖や宿主免疫関連遺伝子応答が異なることが原因である。

  • キーワード:H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザ、病原性、宿主遺伝子発現、ほ乳類、鳥類
  • 担当:家畜疾病防除・インフルエンザ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在アジアを中心に流行しているH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)は、家禽のみならず、人を含めたほ乳類や野鳥などにも致死的な感染を引き起こすことが知られている。一方で、水禽類の中には感染しても不顕性感染でとどまるものがいることも知られている。このことは、ウイルスの病原性はウイルスそのものの因子のほかに、それに対応する宿主反応が重要な役割を担っていることを示唆している。

本研究はタイでハトおよびスズメから分離されたH5N1亜型HPAIVを用いて、ほ乳類の感染モデルとしてマウス、鳥類の感染モデルとして、ニワトリ、ハトを使った感染実験を行い、ウイルス感染後の生存率やウイルスの体内動態を調べるとともに、マウス、ハトの感染実験系において宿主免疫関連遺伝子応答を精査することによってウイルスによる病原性発現機序を明らかにしようとするものである。

成果の内容・特徴

  • タイでハトおよびスズメから分離されたH5N1亜型HPAIV(Pigeon04:ハト分離株、T.sparrow05:スズメ分離株)をSPFニワトリに経鼻感染させたところ、ハト分離株は100%の致死率を示したが、スズメ分離株は70%の致死率にとどまった(図1)。
  • ハト分離株、スズメ分離株をマウスに感染させた場合、ともに100%の致死率を示したが、死亡するまでに8-10日かかった(図2)。また、同じ条件でハトに感染させた場合、30%程度の致死率を示したが(図2)溶媒のみの接種によっても同程度の死亡が認められたため、ウイルスによる直接的な致死作用とは考えられなかった。
  • ハト分離株、スズメ分離株ともに、マウスとハトの肺や脳で増殖した。しかしながら、ハトでのウイルス力価はマウスでのウイルス力価に比べ低い傾向にあった(図3)。
  • ウイルス感染後のハトでの宿主免疫関連遺伝子応答を解析するために、鳥類やほ乳類の既知の遺伝子配列を参考として、14種類の免疫関連遺伝子について、鳥類やほ乳類間で保存されている領域からプライマーを設計し、PCRによってハトの相同遺伝子の部分配列を決定した。決定した部分配列から、14種類のハト免疫関連遺伝子について定量的リアルタイムPCRの系を確立した。
  • ハト分離株感染マウスの肺で炎症性サイトカインであるIL-6の著明な誘導と病理組織像においても炎症が認められたが、同じ株を感染させたハトでは、有意なIL-6産生も炎症も認められなかった(図4)。

成果の活用面・留意点

HPAIVの病原性は、感染した株や宿主によって異なることから、宿主の遺伝子発現等の詳細な解析を行うことで、その病原性発現機構の理解に寄与できる。

具体的データ

図1 鶏におけるウイルス感染後の生存率図2 ハト分離株感染マウス、ニワトリ、ハトの生存曲線
図3 ハト分離株感染マウス、ハト肺内ウイルス力価図4 ハト分離株感染マウス、ハト肺内での宿主応答の比較

(林 豪士、西藤岳彦)

その他

  • 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
  • 中課題番号:170b1
  • 予算区分:研究拠点
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:林 豪士、廣本靖明、Kridsada Chaichoune(マヒドン大学)、 Tuangthong Patchimasiri(タイ家畜衛生研究所)、Warunya Chakritbudsabong(マヒドン大学)、 Natanan Prayoonwong(マヒドン大学)、Natnapat Chaisilp(マヒドン大学)、Witthawat Wiriyarat(マヒドン大学)、 Sujira Parchariyanon(タイ家畜衛生研究所)、 Parntep Ratanakorn(マヒドン大学)、津田知幸、内田裕子、西藤岳彦
  • 発表論文等:Hayashi T. et al. (2011) Virology, 412:9-18
    Hayashi T. et al. (2011) PLoS One, 6: e23103