異種動物間PMCA産物はシードのプリオンと生物学的性状が異なる
要約
マウス脳乳剤を基質としてPMCA法により増殖させたハムスタースクレイピー株はプリオン蛋白質過発現マウスへの伝達が可能であり、直接マウスへ伝達した場合と異なる生物学的性状を示す。
- キーワード:プリオン、種の壁、PMCA、異常プリオン蛋白質、多様性
- 担当:家畜疾病防除・プリオン病
- 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所・プリオン病研究センター
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
伝達性海綿状脳症の病原体は、感染性蛋白因子プリオンであると考えられているが、その起源や多様性を生じる原因については不明な点が多い。プリオンが異種動物へ伝達されると、新規なプリオンが生成されると考えられるが、種の壁により発症に至らない場合が多い。試験管内で異常プリオン蛋白質(PrPSc)を増殖させたProtein misfolding cyclic amplification (PMCA) 法は、異種動物のPrPScを増殖できる例が報告されている。しかしながら、異種間PMCAにより生成されたPrPScと異種動物で継代して得られたPrPScとの異同は不明のままである。本研究では、ハムスター・マウス間の異種間PMCAで生成されたPrPScと異種動物内で生成されたPrPScの生物学的特性を比較・検討する。
成果の内容・特徴
ハムスタースクレイピー株Sc237をシードに、正常マウス脳乳剤を基質に用いた異種間PMCAにより、プロテアーゼ抵抗性のPrPScが生成され、22回の増殖(R22)後もPrPScは生成可能である(図1)。
- Sc237をマウスプリオン蛋白質過発現マウスtga20に脳内接種すると、平均548日で全頭発症する。初代接種マウスの脳乳剤をさらに同マウスに脳内接種すると、潜伏期は有意に短縮される(図1)。
- 異種間PMCA由来PrPSc(R22)をtga20マウスに脳内接種すると、平均345日で全頭発症する。初代接種マウスの脳乳剤をさらに同マウスに脳内接種しても、潜伏期は短縮されない。(図1)。
- ウェスタンブロット解析において、異種間PMCA由来PrPSc(R22) を接種したマウスの脳内に蓄積するPrPSc(R22/tga)は、シードに用いたSc237を接種したマウスに蓄積するPrPSc(Sc237/tga)やマウススクレイピー株とは異なるバンドパターンを示す(図2)。それらのバンドパターンは第2世代マウスでもそれぞれ維持されている。
- 脳における空胞変性プロファイルは、Sc237接種マウスと異種間PMCA由来PrPSc接種マウス間で異なる(図3)。
- Sc237接種マウスおよび異種間PMCA由来PrPSc接種マウスの脳に蓄積したPrPScは異なるプロテアーゼ抵抗性を示す。
成果の活用面・留意点
- 異種間PMCAによって生成されたPrPScは、生体内伝達によるPrPScとは同等でなく、宿主に対する病原性やPrPSc分子の生化学的性状が異なる新規のプリオン株であることが示された。
- 異種間PMCAは、PrPScの多様性を解明する研究ツールに応用可能である。
具体的データ



(吉岡 都)
その他
- 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE等のプリオン病の清浄化技術の開発
- 中課題番号:170b2
- 予算区分:委託プロ(BSE)
- 研究期間:2008~2011年度
- 研究担当者:吉岡 都、今村守一、岡田洋之、下嵜紀子、村山裕一、横山 隆、毛利資郎
- 発表論文等:Yoshioka M. et al. (2011) Microbiol. Immunol. 55(5):331-340