プリオン蛋白質の試験管内構造変換における還元剤添加の影響はプリオン株間で異なる。細胞膜上および細胞小器官内における構造変換の効率はプリオン株毎に異なり、プリオン株特有の細胞指向性の一因となっているのかもしれない。
正常型プリオン蛋白質(PrPC)から異常型プリオン蛋白質(PrPSc)への変換は、細胞膜上やエンドソーム・リソソーム内で起こると考えられている。細胞膜上は酸化状態であるのに対し、エンドソーム・リソソーム内は還元状態であり、両者の環境条件は全く異なっている。しかしながら、このような酸化還元状態の違いがPrPScの変換に与える影響については明らかではない。そこで試験管内でPrPCからPrPScへの変換が再現できる試験管内無細胞変換(Cell-free conversion; CFC)系(図1)を用いて還元剤存在・非存在下で構造変換を行い、酸化還元状態と構造変換との関係を調べる。
マウス順化スクレイピーChandler株およびマウス順化BSE (mBSE)株をPrPScシードとして還元剤存在・非存在下でCFCを行い、大腸菌由来マウスプリオン蛋白質 (MoPrP)のプロテアーゼ抵抗性のPrPSc様プリオン蛋白質 (PrPres)への構造変換を調べる。PrPScとMoPrPとの結合効率には、両プリオン株共に酸化還元条件に伴う有意な差は認められない(図2A)。Chandler株のPrPresへの変換効率は酸化還元条件により変化しないが、mBSE株における変換効率は還元剤存在下において有意に上昇する(図2B)。
Chandler株PrPScを接種したマウスとmBSE株を接種したマウスでは、脳におけるPrPScの蓄積部位に違いが認められる。プリオン株間に認められた酸化還元状態に伴う変換効率の違いは、PrPScの増幅に関するプリオンの特性と脳におけるPrPScの蓄積パターンの違いとに関係しているかもしれない。
(今村守一)