豚インターロイキン12および23関連分子群の同定

要約

豚の獲得免疫の中心的役割を果たすTリンパ球亜集団の機能の調節に不可欠なインターロイキン12および23ならびにそれらの受容体の構成蛋白質の遺伝子を同定し、その一次構造をすべて明らかにした。豚の免疫機能の解明やそれに基づく新たな疾病防除技術の開発などへの応用が期待される。

  • キーワード:インターロイキン12、インターロイキン23、組換え蛋白質、豚
  • 担当:家畜疾病防除・病態監視技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

家畜における免疫応答の理解は家畜伝染病の病態の理解や防除に有用であるが、豚ではその調節に関わるサイトカインやその受容体といった基本的な分子すら未解明なものが多く、その解析はしばしば困難である。

本研究ではこれまで未同定の豚インターロイキン(IL)-12受容体 (IL-12R) の構造解明をはじめ、炎症形成や自己免疫疾患の進行において重要なIL-23およびその受容体 (IL-23R) を構成する全ての蛋白質の構造を明らかにし、豚の免疫応答の解析に必要な知見を提供する。豚での獲得免疫の成立や病態の理解を深めるとともに、組換え蛋白質の利用による新しい疾病防除技術の開発に資する。

成果の内容・特徴

  • 異なる動物種間で高度に保存されると考えられるIL-12Rβ1鎖(IL-12Rβ1)、IL-23p19鎖(IL-23p19)、IL-23Rα鎖 (IL-23Rα)遺伝子の特定の領域に対してPCR用 primer を設計する。免疫刺激を加えた豚リンパ球からRNAを調製して、これを鋳型としてPCRを実施し、得られた増幅産物の塩基配列を決定する。その情報をもとに再度primerを設計してRACE解析を実施するとIL-12Rβ1、IL-23p19、IL-23Rαの全長をコードする相補DNAが得られる。これらの塩基配列を決定し、系統樹解析を行う(図1)。既報のIL-12のp35鎖およびp40鎖(IL-12p35、IL-12p40)およびIL-12Rβ2と併せて豚IL-12/23のシグナル伝達系に関わる全ての構成分子が明らかになる。
  • 決定された塩基配列情報を用いて豚ゲノムデータベースを検索することにより、IL-12Rβ1、IL-23p19およびIL-23Rαの遺伝子座がそれぞれ第2、第5および第6染色体上に同定存される(図2)。
  • 既報の豚IL-12p40遺伝子組換えバキュロウイルスの製法に準じて豚IL-23p19遺伝子組換えバキュロウイルスを作製する。両ウイルスを昆虫細胞(TN5細胞)に等力価で同時に感染させるとIL-12p40/IL-23p19からなる複合体が形成される。これをマウス由来の脾細胞に添加すると、IL-23により誘導されるIL-17の用量依存的な産生が認められる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • IL-23Rα 、IL-12Rβ2 鎖はそれぞれTh17およびTh1と呼ばれるTリンパ球亜集団が発現する表面マーカーであり、炎症形成(Th17)や細胞性免疫応答(Th1)におけるこれらのTリンパ球亜集団の豚における動態や機能解析に利用できる。
  • IL-23p19とIL-12p40の共発現により活性型豚IL-23が生産できた。豚IL-23の機能の解明に資すると期待される。また、IL-23は、活性型IL-12と併せて豚での効率的な免疫誘導(ないしは抑制)技術の開発に向けて応用が期待できる。

具体的データ

図1 哺乳動物のIL-23p19遺伝子の系統樹解析図2 ブタIL-12Rβ1遺伝子およびIL-23Rα遺伝子IL-12Rβ2遺伝子の構造
図3 組み換え型ブタIL-23の生物活性

(國保健浩)

その他

  • 中課題名:罹病家畜の病態解明と発病監視技術の開発
  • 中課題番号:170c1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:國保健浩、Dang Hoang Vu、安江博(生物研)
  • 発表論文等:Kokuho T. et al. (2012) J. Vet. Med. Sci. 74:367-372