唾液中のIL-18は豚の急性ストレスの非侵襲的マーカーとなる

要約

豚の唾液中IL-18濃度は急性拘束ストレス時に有意に上昇することから、非侵襲的なストレスマーカーとなりうる。IL-18の産生細胞は唾液腺の導管上皮細胞であり、その発現はストレスによる交感神経刺激と関連し、下顎腺および舌下腺より分泌されると考えられる。

  • キーワード:唾液、IL-18、アニマルウェルフェア、ストレス、非侵襲
  • 担当:家畜疾病防除・病態監視技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年ヨーロッパを中心にアニマルウェルフェアに対する関心が高まり、わが国でも2009年よりアニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針が公開され、快適性に配慮した家畜の飼養管理に対する対応が求められている。これまで、家畜の快適性やストレスを評価する方法には、行動学的因子(尾かじり行動等)の観察や血液中のストレス因子(コルチゾール等)の測定がある。しかし、これらの方法は、行動観察に長時間を要したり、血液採取自体が動物にストレス(侵襲)を与えたりする等の欠点がある。一方、唾液の採取は非侵襲的かつ簡便な用具で行うことができ、動物にほとんどストレスを与えないという利点がある。しかし、家畜における唾液中のストレスマーカーは十分に検討されていない。本研究では、唾液を試料にしたストレスマーカーの確立を目指し、豚の急性拘束ストレスモデルについて、唾液中のIL-18のストレスマーカーとしての特性について調査する。

成果の内容・特徴

  • 豚の行動を60分間拘束した急性拘束ストレスモデル(図1)において、採取した唾液中のIL-18濃度は拘束開始後15分から有意に上昇し、拘束開始後30分でも高値を維持する。また、拘束開始後60分ではさらに大きく上昇する(図2)。
  • 唾液中のIL-18濃度には日内変動があり、午前9時には低値だが、午前11時には上昇傾向を示し、午後1時から午後5時にかけて午前9時の約3-4倍程度に有意に上昇する。
  • 免疫組織染色により、唾液腺の導管上皮細胞がIL-18を発現していることが明らかになる。また、IL-18発現導管上皮細胞には各唾液腺間で差があり、各唾液腺の中で、交感神経支配下で唾液の蛋白質成分を主に分泌する顎下腺および舌下腺の導管上皮細胞においてIL-18の発現が見られる。一方、副交感神経支配が強く、唾液の水分や電解質を主に分泌する耳下腺ではIL-18の発現は認められない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 唾液中IL-18は豚の急性ストレスの非侵襲的なストレスマーカーとして有用である。豚IL-18を測定するキットは市販されているため、ストレスマーカーとして幅広く活用可能である。
  • 唾液中のIL-18濃度には日内変動が存在することを考慮し、唾液の採取時間や給餌時間などに注意する必要がある。
  • IL-18はストレスに伴う交感神経刺激に反応して唾液中に分泌されると考えられる。唾液腺におけるIL-18の発現・分泌の分子機構や慢性ストレスに対する影響については今後の検討を要する。

具体的データ

図1 豚への拘束ストレス図2 急性拘束ストレス時の唾液IL-18濃度 Preに比べて有意差あり。
図3 各唾液腺におけるIL-18発現導管上皮細胞の免疫染色像

(宗田吉広)

その他

  • 中課題名:家畜の病態解明と先端技術を利用した新たな疾病防除技術の開発
  • 中課題番号:170c1
  • 予算区分: 交付金プロ(健全養豚)
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者: 宗田吉広、皆川 遊、中根 崇(千葉県)、芝原友幸、吉川忠雄(帯畜大)、小俣吉孝(帯畜大)
  • 発表論文等:Muneta Y. et al. (2011) Stress, 14(5):549-556