マルチプレックスPCRによるサルモネラ主要血清型同定法

要約

3つの血清型特異的遺伝子とサルモネラ特異的なinvA遺伝子を同時検出するマルチプレックスPCRにより、被検菌が家畜衛生及び公衆衛生上重要な7つのサルモネラ血清型であるか否かを高精度に判定できる。

  • キーワード:サルモネラ、血清型、同定、マルチプレックスPCR、キット
  • 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

サルモネラは代表的な食品媒介性人獣共通感染症病原体である。食肉衛生検査や飼料検査の現場ではサルモネラが分離されると血清型別を行い、それが監視伝染病に含まれるか否かを明らかにする必要がある。サルモネラの血清型別には通常、4日程度の時間を要することから、監視伝染病を含む主要な血清型を迅速に同定する手法の開発が望まれている。そこで、被検菌が家畜衛生及び公衆衛生上、重要視される7血清型であるか否かを高精度に判定できるマルチプレックスPCRを開発する。

成果の内容・特徴

  • 血清型Typhimurium、Choleraesuis、Infantis、Hadar、Enteritidis、Dublin、Gallinarumの全ゲノム塩基配列情報を用いた比較ゲノム解析によって、各血清型に特異性の高い3遺伝子を選択できる。
  • サルモネラ属菌であることを示すinvA遺伝子及び各血清型に特異性の高い3遺伝子を標的として、これらを同時検出するマルチプレックスPCR系を構築できる。
  • 各標的血清型についてinvA遺伝子(600bp)と血清型特異的遺伝子(300bp、200bp、100bp)の計4遺伝子を同時検出するためのPCR条件を統一できる。
  • 4遺伝子で増幅を認めた株は標的血清型と判定できる。標的血清型以外のサルモネラではinvAの増幅は認められるが、3つの血清型特異的遺伝子が全て増幅する株は一部の近縁血清型を除いて認められない。サルモネラ以外の菌では一部の例外を除いていずれの遺伝子増幅も認められない(図1)。
  • 開発した手法の特異性の高さは野外分離株を用いて確認できる。
  • 本技術を利用した7種の簡易キットがタカラバイオ(株)から入手可能である(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象
    食肉衛生検査、飼料検査、家畜衛生検査、食中毒検査、臨床検査
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等
    全国
  • その他
    1) 食肉衛生検査所、農林水産消費安全技術センター、動物検疫所、家畜保健衛生所、大学等から問合せあり。
    2) 増菌培養液等の検査材料からDNAを抽出し、マルチプレックスPCRで主要血清型を検出することにより、検査時間をさらに短縮することが可能となる。現在、本プロトコールの適用性を検討中である。

具体的データ

図1.マルチプレックスPCRによるサルモネラ主要血清型同定法
図2.7種の簡易キット

(秋庭正人)

その他

  • 中課題名:飼料等の家畜飼養環境の安全性確保技術の開発
  • 中課題番号:170d1
  • 予算区分:委託プロ(生産工程)
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:秋庭正人、楠本正博、岩田剛敏
  • 発表論文等:1)秋庭ら「サルモネラを検出するためのオリゴヌクレオチドとそれらを用いた血清型迅速同定法」特願2009-215692、特願2011-175331、特願2011-175338
    2) Akiba M. et al. (2011) J. Microbiol. Methods 85: 9-15