我が国の牛乳中過塩素酸塩濃度調査

要約

我が国の畜産環境における過塩素酸塩の検出頻度が高いが、その濃度は比較的低い。牛乳から検出される過塩素酸塩は主に飼料に由来する。

  • キーワード:過塩素酸塩、環境汚染物質、牛乳、混合飼料、飲水
  • 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

過塩素酸塩は急速に注目されつつある新しい環境汚染物質である。過塩素酸塩は自然にも存在するが、助燃剤などとして工業目的で大量に使われている。 過塩素酸塩はヨウ素の取り込みを阻害し、特に妊娠女性と胎児や乳児などの甲状腺ホルモン産生能力に影響を及ぼすと推測されている。このため、米国環境保護庁(EPA)は2005年に過塩素酸塩の参照用量(RfD)を0.7μg/kg体重/dayと制定している。

牛乳と乳製品は人間に対する過塩素酸塩の主要な曝露源であり、牛乳における過塩素酸塩の濃度は、飼料から摂取量に有意に相関しているとの報告がある。そこで、わが国の牛乳中過塩素酸塩濃度の実態を把握するため、市販牛乳、生乳、混合飼料等に含まれる過塩素酸塩濃度を調査する。

成果の内容・特徴

  • 2010年5月から8月の間に、日本の各地の市販牛乳を45検体採取し、高速液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS/MS)で牛乳中過塩素酸塩濃度を測定したところ、検出率は100%(検出限界0.16ng/ml)で、その濃度は平均8.4±2.8ng/ml(3.8-14.4ng/ml)である(図1)。
  • 同一の飼料と飲水を給与されている乳牛において、出産直後の初乳から出産後30日までの生乳中の過塩素酸塩濃度に経時的な変化はなかった(図2)。また、牛乳中の過塩素酸塩濃度と出産回数に相関性はみられない。
  • 乳牛用混合飼料(TMR飼料の構成調査済、n=3)と給与水(n=3)の過塩素酸塩濃度はそれぞれ 93±46ng/g 乾物重量 と0.1±0.04ng/mlである。

成果の活用面・留意点

  • 今回の調査で、飼料が牛に対する過塩素酸塩の主要な曝露源であることが確認できたので、配合飼料、自給飼料等の過塩素酸塩濃度をさらに調べる必要がある。また、給与水については、国内水系で10ng/ml以上の報告があり、地域による濃度差があり得るので範囲を広げて調査する必要がある。
  • 今回の調査結果から、1歳から2歳の幼児の牛乳からの一日あたりの過塩素酸塩摂取量は、体重kgあたり124ngと推定される(平均体重:11.4kg、平均牛乳の摂取量168ml)。これはRfDの17%である。幼児の一日摂取量は国民健康・栄養調査報告(厚生労働省 2008年)に 基づき算定したが、全ての乳製品を含めた「乳類」(168±150g)を牛乳の摂取量として計算している。

具体的データ

図1.市販牛乳中過塩素酸塩の検出頻度

図2.生乳における過塩素酸塩濃度の変化 (初産牛 n=2,2産牛 n=3)

(グルゲ・キールティ・シリ)

その他

  • 中課題名:飼料等の家畜飼養環境の安全性確保技術の開発
  • 中課題番号:170d1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010年度
  • 研究担当者:グルゲ・キールティ・シリ
  • 発表論文等:Guruge K.S. et al. (2011) J. Environ. Monit. 13(8): 2312-2320