ネットワークシミュレーションモデルを用いた馬伝染性貧血サーベイランスの評価

要約

馬伝染性貧血のサーベイランス手法を検討するため、競走馬以外の馬を対象に馬の移動に伴う本病の伝播モデルを構築した。乗馬施設の馬と施設間で移動する馬を検査対象にすることによって、サーベイランスの効率化が期待できる。

  • キーワード:サーベイランス、馬伝染性貧血、馬の移動、ネットワークシミュレーションモデル
  • 担当:家畜疾病防除・動物疾病疫学
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在、国内では、多岐にわたる家畜伝染性疾病サーベイランスが実施されている。限られた人員と財源の中でサーベイランスを実施するためには、効果的で効率的なサーベイランスを検討する必要がある。馬伝染性貧血(Equine infectious anemia: EIA)については、法に基づき少なくとも5年に1回の血清検査が定められているが、1993年以降3件で摘発されたのみである。そこで、本研究では、競走馬以外の馬を対象に、馬の移動を組み込んだEIA伝播のネットワークシミュレーションモデルを作成し、本病が発生した際の早期摘発と感染拡大防止、さらには検査の効率化を目指したサーベイランス手法について定量的評価を行う。

成果の内容・特徴

  • 国内の競走馬以外の馬飼養施設を飼育目的に応じて、乗馬、個人飼育、展示及び肥育の各セクターに分類し、セクター間及びセクター内の馬の移動を組み込んだEIAの伝播モデルを作成する。モデルの入力値には、馬飼養者を対象にした調査結果や論文からのデータを用いる。作成した伝播モデルにサーベイランスによる検査を組み入れて(図1)、様々なサーベイランスの有効性を評価する。
  • 伝播モデルを用いてシミュレーションを行なうと、EIAの侵入から1年後には、5戸・18頭に感染が広がることが推定され、これらの多くは乗馬施設での発生である。
  • 現行サーベイランスでは、感染馬をEIA侵入後17週目で摘発し、摘発時の感染は2戸・4頭であると推定される。乗馬施設、個人飼育及び飼育目的で施設間を移動する馬を検査対象に毎年検査を実施する場合(シナリオ1)、現行モデルよりも摘発が早いものの、検査頭数が多くなる。乗馬施設に加えて施設間を移動する馬を対象とした場合(シナリオ2-6)、現行サーベイランスの効果と大きく変わらないまま、検査頭数を3~4割に減らすことができる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 馬の移動に伴うEIAの伝播リスクが高い集団を明らかにすることができ、サーベイランスの効率化が図られる。
  • 国と都道府県の家畜衛生担当者を対象に本病のサーベイランスのための有用知見として提供できる。
  • サーベイランス手法の検討の際には、今回のモデルに含まれていない競走馬や輸入馬でのリスクも考慮する必要がある。

具体的データ

図1.EIA伝播モデルの構造
表1.EIAサーベイランス手法の比較

(早山陽子)

その他

  • 中課題名:重要疾病の疫学解析及び監視技術の高度化等による動物疾病対策の確立
  • 中課題番号:170d3
  • 予算区分:レギュラトリーサイエンス
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:早山陽子、小林創太、西田岳史、室賀紀彦、筒井俊之
  • 発表論文等:Hayama et al. (2012) Prev. Vet. Med. 103:38-48