近年北海道で分離される牛由来Salmonella Typhimuriumの遺伝学的特徴

要約

北海道で分離された牛由来Salmonella Typhimuriumはパルスフィールドゲル電気泳動で型別するとIからIX型に分類され、VII型菌は2000年から出現して近年最も多く分離される。VII型菌の多くが多剤耐性を示し、薬剤耐性病原性プラスミドを保有する。

  • キーワード:Salmonella Typhimurium、PFGE、MLVA、薬剤耐性病原性プラスミド
  • 担当:家畜疾病防除・大規模酪農衛生
  • 代表連絡先:029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・寒地酪農衛生研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

Salmonella Typhimurium (ST) は、子牛や搾乳牛に敗血症や悪性下痢を引き起こし、酪農経営上大きな問題となる。流行株の特徴や感染源・感染経路等を迅速に把握することは、防疫対策を講じる上で急務である。本研究では、サルモネラの分子疫学的解析システムを構築するため、牛由来STを、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)により解析し、遺伝子型に基づくデータベースを作成する。これにより、遺伝子型の経年変化を解析し、近年流行しているSTの遺伝子型およびその特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1977年から2009年に、北海道において分離された牛由来ST 545株をPFGEで解析すると、116種類のプロファイルが検出され、I~IX型に分類される。
  • 多剤耐性ファージ型104(DT104)を含むI型菌の分離は、成牛型サルモネラ症の顕在化した1992年ごろから増加し、2004年以降減少傾向にある(図1)。
  • 2000年からVII型菌が出現して、2002年ごろから増加傾向を示し、近年最も多く分離されている(図1)。
  • 各PFGEプロファイルを代表する116株についてmultiple-locus variable-number tandem-repeats analysis (MLVA)で解析すると、PFGE VII型菌では、薬剤感受性株を除く多剤耐性株の全株が1つのクラスター(D)を形成し(図2)、VII型菌はI型菌と同様に、クローナリティーの高い多剤耐性菌であることが示唆される。
  • VII型菌165株の多くが多剤耐性であり、このうち、98%がアンピシリン耐性で、16%がセファゾリン耐性を示す(表1)。
  • VII型菌は78kbから130kbの血清型特異的病原性プラスミドを保有し、多くが薬剤耐性遺伝子(アンピシリン、テトラサイクリン、サルファー剤、ストレプトマイシン、カナマイシン耐性)を保持している。なお、セファゾリン耐性因子はプラスミド上にはなく、染色体上に存在することが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • PFGE等による遺伝子型や薬剤耐性プロファイルに基づくデータベースは、新型菌出現の検出等を可能とし、流行型のモニタリングに活用できる。
  • 近年分離が増加している多剤耐性VII型菌における遺伝学的特徴の一端が明らかとなり、今後特に、セフェム系抗生物質に対する耐性化に注意する必要がある。
  • VII型菌のPFGEおよびMLVAプロファイルは、北米において、2000年から出現した新型の多剤耐性菌と類似しており、今後も拡散状況を継続的に監視する必要がある。

具体的データ

図1  PFGE型の経年的推移
図2 MLVA解析による系統樹表1 VII型菌の薬剤耐性プロファイル

(玉村雪乃)

その他

  • 中課題名:大規模酪農衛生
  • 中課題番号:170e1
  • 予算区分:委託プロ(生産工程)
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:玉村雪乃、内田郁夫、田中 聖、秋庭正人、窪田宜之、秦 英司、菅野 徹、畠間真一、石原凉子
  • 発表論文等:Tamamura Y. et al. (2011) Appl. Environ. Microbiol. 77(5):1739-1750