反芻動物のアルボウイルスを媒介するオーストラリアヌカカは九州に広く分布する
要約
国内では、南西諸島にのみ常在すると考えられていた、アルボウイルス媒介種のひとつであるオーストラリアヌカカCulicoides brevitarsisは九州に広く分布し、牛舎に隣接した放牧地で繁殖している。
- キーワード:アルボウイルス、ブルータングウイルス、ヌカカ、異常産、牛
- 担当:家畜疾病防除・暖地疾病防除
- 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所・温暖地疾病研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
我が国では、周期的に反芻動物のアルボウイルス感染症の流行が認められる。媒介種のひとつであるオーストラリアヌカカは、国内では南西諸島にのみ定着し、ブルータングウイルスやアカバネウイルスをはじめとする牛の様々なアルボウイルスを媒介するとされている。しかし、九州でオーストラリアヌカカが確認されたことから、本種の分布や定着の可否について再検討する必要がある。
成果の内容・特徴
- 2008~2009年に、長崎県、熊本県、鹿児島県内の計13農場で、ライトトラップ法によりヌカカの採集調査を行った結果、3県の9農場でオーストラリアヌカカが確認されている(図1)。そのうち、長崎県の1農場と鹿児島県の2農場では2年連続して採集されたことから、同種が九州に広く定着している可能性がある。
- オーストラリアヌカカが確認された場所は、いずれも放牧地に隣接した牛舎であり、放牧地の牛の糞便から同種の幼虫が分離されることから、このような場所で生活環が形成されていると考えられる(図2)。
- 九州以北では、幼虫の生育に水田などの湿地を必要とするウシヌカカCulicoides oxystomaがアルボウイルスの主要な媒介種とされている。一方、オーストラリアヌカカは山間部や離島の放牧地で繁殖が可能なことから、今までアルボウイルス感染症の流行リスクが低いとされていたこれらの地域でも、伝播が起こる可能性が高い。
成果の活用面・留意点
- 国内では、南西諸島にのみ定着していると考えられていたオーストラリアヌカカが、九州本土にも分布することを明らかになったことから、国内の他の地域でもその分布について調査を行うことが重要である。
- オーストラリアヌカカの生態およびアルボウイルス媒介能を精査し、アルボウイルス流行地におけるリスク評価および防除技術の高度化に活用する必要がある。
具体的データ


(梁瀬 徹)
その他
- 中課題名:アルボウイルス感染症等の亜熱帯地域に多発する疾病の防除法の開発
- 中課題番号:170e2
- 予算区分:交付金プロ(飛来媒介昆虫)
- 研究期間:2008~2010年度
- 研究担当者:梁瀬 徹、平田美樹(鹿児島県)、松森洋一(長崎県)、松村正哉(九沖農研)、加藤友子、白藤浩明、山川 睦、早山陽子、筒井俊之
- 発表論文等:Yanase T. et al. (2011) J. Vet. Med. Sci. 73(12): 1649-1652