薬剤および草地・放牧管理技術を組み合わせた効果的なマダニ対策技術

要約

放牧場における放牧条件やマダニ生息数調査を通じたマダニ対策の問題点の整理・解析から、より効果的なマダニ対策には、薬剤投与において放牧地を集約化するなど放牧頭数、放牧地面積を勘案することが重要である。

  • キーワード:放牧、衛生、マダニ対策、殺ダニ剤、小型ピロプラズマ病
  • 担当:自給飼料生産・利用・公共牧場高度利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域(東北支所)
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

放牧家畜において問題となる小型ピロプラズマ病を媒介するマダニの対策は、主に殺ダニ剤などの薬剤利用により実施されているが、近年マダニ数が減少しない、あるいは増加傾向を示す事例が報告されている。そこで放牧条件やマダニ生息数調査を通じて現在のマダニ対策の問題点を整理・解析し、薬剤使用と草地・放牧管理技術を組み合わせた効果的なマダニ対策技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 11牧場におけるマダニ生息数調査から、マダニは放牧全期間を通じて発育期を変えながら活動している。また、5年間の休牧はマダニ生息数を減少させる効果があり、薬剤を使用しないで家畜(馬)を放牧している放牧場ではマダニ生息数はきわめて多く、野生動物の侵入の多い放牧場では薬剤を使用していてもマダニ生息数が多い(表1)。
  • 殺ダニ剤投入量や投入指数(表1脚注)が大きい牧場ではマダニ生息数が少なく、小さい牧場ではマダニ生息数は多い傾向があること、また、放牧頭数充足度(表1脚注)の低い牧場ではマダニが多く採集される傾向が認められ、薬剤投与において放牧頭数、放牧地面積を勘案する必要がある(表1)。
  • 放牧期間中の薬剤使用が2回程度であったA牧場において、入牧から退牧まで2週間ごとに放牧牛全頭に薬剤を3年間使用した場合、マダニは各発育期ともに経年的に減少する(図1)。
  • 得られた結果から、放牧場における効果的なマダニ対策として以下の4点が重要項目である。
    1) 全放牧期間を通じて定量の薬剤を指定された投与間隔で放牧牛全頭に継続して使用する。
    2) 薬剤の使用にあたっては、放牧草地面積および放牧頭数について適正な草地管理上の放牧密度(肉用繁殖牛では放牧草地1haあたり4頭程度)を勘案し、放牧草地に薬剤が十分行き届くよう考慮する。
    3) 牧区単位での休牧を取り入れ、牧場全体の集約化を図る。休牧中は採草地として活用する。
    4) シカなどの大型野生動物の放牧草地への侵入を可能な限り防止し、マダニの持ち込みを抑制する。

成果の活用面・留意点

  • マダニ生息数が減少しないあるいは増加傾向にある公共牧場などにおいて、本成果は新たなマダニ対策として活用できる。
  • マダニ対策には長期的な取り組みが必要である。近年放牧頭数が減少している公共牧場などにおいては、放牧地の集約化が望まれる。

具体的データ

 表1,図1

その他

  • 中課題名:預託期間拡張を可能とする公共牧場高度利用技術の開発
  • 中課題番号:120c4
  • 予算区分:委託プロ(国産飼料)、交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:寺田 裕
  • 発表論文等:
    1)寺田(2011)公共牧場機能強化マニュアル、74-78
    2)寺田(2011)放牧牛の管理マニュアル、66-89
    3)寺田(2012)放牧を主体とした粗飼料多給型肉用牛繁殖経営の飼養管理マニュアル第4編、1-24