PCR法および遺伝子解析によるトリアデノウイルスの同定・型別法と鶏封入体肝炎発生例への応用

要約

鳥類から分離されるアデノウイルス全てを検出・型別できるPCR法を確立し、本法を2009年から2010年にかけて全国で発生した鶏封入体肝炎例から分離されたウイルスについて応用したところ、2010年発生例は同一の感染ルートに起因することが推察された。

  • キーワード:トリアデノウイルス、PCR法、型別、封入体肝炎、系統樹
  • 担当:家畜疾病防除・ウイルス感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

鳥類から分離されるアデノウイルスには鶏に筋胃びらんや封入体肝炎を引き起こすAviadenovirus (Group I avian adenovirus:AAV)、七面鳥に出血性腸炎を引き起こすSiadenovirus (Group II AAV)、鶏に産卵低下症候群を引き起こすAtadenovirus (Group III AAV)の3種類が知られている。さらにGroup I AAVは11種類の血清型に分類されている。これらのウイルス分離には主に初代培養鶏腎細胞やSPF発育鶏卵等を使用せねばならず、また型別には他種類の抗血清を用いる必要があることから、家畜保健衛生所等において容易に実施できる簡便なウイルスの同定・型別法の確立が望まれている。

成果の内容・特徴

  • 遺伝子データベースに登録されているこれらのウイルス遺伝子情報を基に、鳥類から分離される上記3グループ全てを検出でき、また型別もできるように、アデノウイルスHexon遺伝子の超可変領域を含むPCRプライマー(HexF1:5'-GAY RGY HGG RTN BTG GAY ATG GG-3', HexR1:5'-TAC TTA TCN ACR GCY TGR TTC CA-3')を設計した。
  • 設計したPCRプライマーの有用性を、各グループの標準株を用いて検証すると、全ての株で約800bpの明瞭なPCR産物が確認される(図1)。
  • 得られたPCR産物の塩基配列を決定し、NJ法による分子系統樹解析を実施すると、各標準株は血清型に準じたグループに分類される(図2)。
  • 2009年から2010年にかけて全国で発生した鶏封入体肝炎(Inclusion body hepatitis:IBH)例から分離されたウイルスについて本法を応用したところ、Group I AAV血清型2に分類され、またこの結果は初代鶏腎細胞を用いた中和試験の結果と一致する。さらにその塩基配列を決定したところ、2010年発生例由来ウイルスはほぼ同一であったことから同一の感染ルートに起因することが推察される(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象 各都道府県家畜保健衛生所や動物検疫所病性鑑定担当の獣医技術者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 全国の家畜病性鑑定施設
  • その他 鶏封入体肝炎や鶏筋胃びらんの発生があった県の病性鑑定(ウイルス)担当者から本法に関する問合せがあり、すでにプライマー情報と反応条件を提供済み。また病性鑑定指針(農林水産省 消費・安全局)に掲載予定。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防除技術の確立
  • 中課題番号:170a1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:真瀬昌司、中村菊保
  • 発表論文等:
    1) Mase M. et al. (2009) J. Vet. Med. Sci.71:1239-1242
    2) Nakamura K. et al. (2011) Avian Dis. 55:719-723
    3) Mase M. et al. (2012) J. Vet. Med. Sci. 74:1087-1089