豚B群ロタウイルスの非構造蛋白質NSP2、NSP5は遺伝的に多様性に富む

要約

豚B群ロタウイルスの増殖に関与するNSP2およびNSP5遺伝子は、ウイルス株間において遺伝的に多様であり、少なくとも3つの型に分類される。これらの遺伝子が複数の遺伝子型に区別されるのは豚由来株のみである。

  • キーワード:豚B群ロタウイルス、NSP2、NSP5、遺伝的多様性、遺伝的分類
  • 担当:家畜疾病防除・ウイルス感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚B群ロタウイルスは哺乳豚および離乳豚下痢の主要病原体の一つであり、近年本ウイルス病は増加傾向にある。しかしながら、本ウイルスは培養細胞での増殖が困難なため、遺伝子性状や進化学的な位置づけなど不明な点が多く残されている。非構造蛋白質であるNSP2およびNSP5はともに、他のロタウイルスにおいてウイルスの複製・増殖に深く関わっていることが明らかにされているが、B群ロタウイルスにおけるそれら遺伝子の配列および機能は未解明である。野外で検出された複数の豚B群ロタウイルス株を用いて、それら遺伝子の配列を明らかにし、他のロタウイルスの配列と比較・解析することで、NSP2およびNSP5蛋白質の機能や本ウイルスの起源などを推察する。また、豚B群ロタウイルスのNSP2およびNSP5の遺伝子情報に既知の他動物由来B群ロタウイルスの遺伝子情報を加えた上で系統樹解析を行い、本ウイルスの動向や浸潤状況を調査する際に役立つ遺伝学的分類を行う。

成果の内容・特徴

  • B群ロタウイルスのNSP2は4つの遺伝子型に分類され、異なる遺伝子型間で25~35%の相違が認められる。その中で、豚B群ロタウイルスは3つの遺伝子型に分類される(図2)。ヌクレオチドの維持に必要とされる酵素の活性領域であるHIT(histidine triad)モチーフは、A群やC群ロタウイルスと同様に、B群ロタウイルスでも保存されていることから、同様の機能を担っている可能性を示す(図1)。
  • B群ロタウイルスのNSP5は6つの遺伝子型に分類され、異なる遺伝子型間で30~50%の相違が認められる。その中で、豚B群ロタウイルスは3つの遺伝子型に分類される(図3)。NSP5はリン酸化されて活性化される蛋白質であると考えられているが、B群ロタウイルスの異なる株間で8つのセリンあるいはスレオニン残基が特異的かつ共通して保存されている。

成果の活用面・留意点

  • 比較的保存性が高いとされる非構造蛋白質のNSP2およびNSP5においても、豚由来株が他動物由来株と比較して最も多様であることから、豚におけるB群ロタウイルスの起源は古いと推測される。
  • 今回明らかにした豚B群ロタウイルスのNSP2およびNSP5の塩基配列データは、これら蛋白質の機能や構造解析に有益な情報を提供できる。
  • 豚B群ロタウイルスのNSP2およびNSP5に関する遺伝学的分類は、本ウイルスの動向や浸潤状況を調査する上で有用な情報となると共に、世界に先駆けたB群ロタウイルスの遺伝学的分類基準の策定に貢献する。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防御技術の確立
  • 中課題番号:170a1
  • 予算区分:厚労科研費
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:鈴木 亨、相馬順一(全農)、久我和史、宮崎綾子、恒光 裕
  • 発表論文等:
    1) Suzuki T. et al. (2012) Virus Res. 165:46-51
    2) Suzuki T. et al. (2012) Infect. Genet. Evol. 12:1661-1668